いつまで続く?英国「30年ぶり」の大規模鉄道スト 激しい物価上昇で全国鉄道労働者が賃上げ要求

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歴史をひもとくと、今回のスト初日とまったく同じ日の1989年6月21日、RMTの前身である全国鉄道員組合(NUR)が実力行使に挑んだ。

民営化前の国鉄、ブリティッシュ・レールは同年春、当時のインフレ率を下回る6.7%の賃上げを提示したが、「これでは足りない」と労組が反発。丸1日列車を止めるストを6回繰り返した結果、最終的にインフレ率を上回る賃上げを認めさせることができた。RMTによる今回のストは、1989年の「圧勝」をなぞろうとしたのかもしれない。

全面運休はないが「終電が午後6時」

2度目の大規模ストが行われた7月27日、筆者は退勤時間帯にロンドン市内の主な鉄道ターミナルの様子を追ってみることにした。

最初に訪れたのはイングランド南部方面へのターミナルであるビクトリア駅だ。ストは終日運休ではなく、列車の間引きや「終電繰り上げ」が主体で、同駅では午後6時発の列車をもって運行を中止。早めに仕事を切り上げて駅に駆けつけた退勤の人々が殺到し、一時はコンコースが列車待ちの人々で埋めつくされた。

一方、映画「ハリーポッター」の舞台の一つとしてすっかり有名になったキングスクロス駅でも、午後7時前に発車する近郊列車を最後に運行を終了。事情が把握できていない観光客が「ケンブリッジへ帰れない」と駅員に訴えるものの、「電車はもうない。帰るならウーバー利用で150ポンド(約2万5000円)」と冷たくあしらわれる姿もあった。

市内から南の郊外にあるガトウィック国際空港に向かおうとしていた筆者の知人も、見事にストの“犠牲者“となった。無駄なタクシー代を払わされたとグチりつつ、「さっきまで普通に動いていた列車が突然夕方に運行打ち切りになる事態は想像できなかった。ストだから今日は全然動かないというほうがよっぽど理解しやすい」と鉄道労組のやり方に怒りを示していた。

そのほかにも、ホームには「列車が来る」と表示されているのに “間引き“に遭った、乗っていた列車が途中駅で打ち切られた、普段とは違うルートで走ったなど、ストによる“特別措置“は枚挙にいとまがない。筆者も郊外の自宅に地下鉄で帰る途中、「この列車の行き先駅がストで閉鎖されたため、運行をここで打ち切るので降りてほしい」と言われ、普段の倍以上の時間をかけてようやく帰宅することができた。

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