NHKインサイダー疑惑が問う報道人の職業倫理
NHKも遅きに失した感はあるものの、1月21日に再発防止策を発表。「報道情報システムにアクセスできる職員について、6カ月以内の株式等の売買を禁止」する社内ルールを新設した。同社が1月28日に発表した社内調査結果では、報道情報システムにアクセスできる職員の約6%に当たる162人がこの1年に株式を売買していた。
とはいえ、メディア各社が従業員向けに定める株式取引の社内ルールに完全無欠なものはない。
今回の騒動では、意外に見逃されているポイントがある。インサイダー疑惑の渦中にいるNHK記者ら3人は、会社関係者から直接に事前情報を得た記者ではないということだ。中央大学法科大学院教授の野村修也弁護士は「記者のような職務上の情報受領者の場合は、さらにその者から職務上、未公表の重要事実の伝達を受けた会社の同僚などもインサイダー規制の対象となる」と解説する。
線引きは難しいが、情報を直接入手した記者と「職務上」かかわる関係者は、インサイダー規制の対象となりうるのである。少なくとも、報道局や経済部のみの株式取引制限では、インサイダー取引の可能性を完全に封じ込めたことにならない。
究極のリスク回避は「株式取引の全面禁止」だが、それも難しい。日本国憲法の大原則である「基本的人権の尊重」の観点から、「株取引禁止の内規は従業員の財産権を侵害する」との声が内外から上がる。
一方で、職業倫理の重要性を全社員に説く報道機関もある。
「週刊誌に書かれてマズイことはするな」。時事通信社の谷定文編集局長は、社内研修で記者を含む全社員にくぎを刺す。時事通信社では、たとえ法的な問題がなくても「社会的に疑惑を招く行為」を内規で厳しく禁止。たとえば、皇族の祝い事関係などの「報道規制」を利用して公表前にベビー用品企業の株式を買う、といったようなケースである。違反すれば、解雇になる可能性もあるという。
証券監視委の幹部は「インサイダー取引は証券市場の信頼を揺るがす卑劣な行為」と憤る。”第四の権力”である報道機関の関係者が、それに関与したときに失うものがどれだけ大きいか。NHKの騒動は職業倫理を認識するために、報道関係者一人ひとりに再び発せられた警告である。
(週刊東洋経済:武政秀明記者、倉沢美左記者)
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