普通列車で本州横断、「磐越西線・東線」を乗り通す 郡山駅を境に、2線のカップリングの妙を楽しむ

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当初、乗り継ぐ予定を考えた馬下駅は新潟平野と山地の境界で、一応は折り返し駅として3線を備えるが、静かな里の無人駅。これより阿賀野川とともに谷に分け入り、途端に車窓が鬱蒼とした。次の咲花との間で手始めのトンネルを2つくぐる。美しい駅名の咲花は温泉の地で、数軒のホテルが建ち並ぶ。駅界隈なので、列車で訪れるには恰好の立地だ。

さらに隣の東下条との間で川沿いに出ると、対岸に阿賀野川観光船の乗船場が見えたが、そちらは列車での訪問には距離がありそう。レンタサイクルでもあればよいが、現地に送迎が可能か尋ねてみるのも一手か。

立派な国道バイパスと残された磐越西線

さらに谷の奥へ奥へと多数のトンネル、落石覆いをくぐりながら進んでゆく。トンネルとトンネルの間の一瞬に満ち溢れる光と緑がまぶしい。ただし、GVの側窓は日除けを省略した構造のため、ガラス自体に熱を吸収する金属成分を混ぜている。それで色がやや緑を帯びている。スマホをいじっている日々の通勤電車なら気にも止めないが、遠くから乗りに来た列車で車窓を撮った写真のすべてが緑を被って見える色合いは、少々残念であった。

津川発の2233Dと行き違った五十島を出ると、これまで左車窓にあった阿賀野川が、三川の手前でトラス鉄橋を渡ることによって進行右側に移った。そして三川の先から次の津川にかけて、東北電力の発電所のダムによって広がったダム湖に沿う。だから川面は穏やかだ。

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しかし線路際の崖は切り立ち、とくに1カ所、岩壁が水際までせり出し、そこを並行する旧国道47号とともにトンネルで抜けている。だが、その国道は今、廃道になった。たびたび崩落する危険箇所で、1995年の新潟県北部地震で落盤まで起きたため対岸の山中にバイパスが作られ、2013年に切り替えられた。立派な橋で対岸に渡る国道に対し、磐越西線の線路だけが残された。厳重な管理の下で列車運行は続けられているが、保守のためにアプローチする道を失ってしまうなどの苦労が発生しているそうだ。

津川は「SLばんえつ物語」が途中給水のため上下列車とも15分停車し、乗客が外に出てC57と記念撮影を楽しむ駅 で、駅舎も建て替えられている。だが、それがないと、阿賀町の中心とはいえ、乗降も稀な静かな駅に戻る。

しかし、それが現在の磐越西線である。かつては、仙台や福島から急行「あがの」、上野からも急行「いいで」が会津を経由して新潟までを結ぶ主要路線であった。だからJR線の運賃区分上は「幹線」とされ、それが今に続いている。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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