経営目標に「非財務KPI」、導入進むも玉石混淆 ストーリー見えない「アリバイ工作」的目標も

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同社が非財務KPIを掲げた一因は、強まる事業環境の不確実性だ。橋本修社長は「外部要因によって営業利益が想定通りに進んで(増えて)いなくとも、多方面な視点で着実に実績を上げていると確認できれば、目標に向かって進んでいるとわかる」と話す。

ESGの取り組みと利益の向上の両立が求められるため、社員のストレスが増大することも想定される。橋本社長は「(非財務KPIで)自身の進歩、変革が進んでいることを理解することが、モチベーションや原動力になる」と語る。非財務KPIは社外向けのみならず、社内向けに会社が目指す方向性の共通理解の形成にも役立つという考えだ。

一口に非財務KPIといっても、その内容はさまざまだ。種類別に分類すると、特に多いのは脱炭素関連の目標だ。ただ、4月に導入された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)で開示が必要な「気候変動への取り組み」とも重複する。多くの場合は、非財務KPIでも改めて掲出した以上の意味はさほどないだろう。

それ以外では、DX化の推進につながるデジタル人材の確保・育成、モチベーションの上昇につながる従業員エンゲージメントの改善、取引先や消費者からの評価が反映されたブランド価値の向上、独自にカテゴライズした商品群の収益目標などが目立つ。

専門家「財務につながる因果関係示せ」

経営計画の中で何らかの非財務KPIを掲げることはトレンドになりつつあるが、「型」のセオリーがない非財務KPIの出し方は、ある意味で自由だ。社外に対してどう見せるかは、それぞれの企業の考え方次第になってくる。

企業経営に詳しい一橋ビジネススクールの名和高司客員教授は、目下、急増する各社の非財務KPIを俯瞰したうえで、「機関投資家からのレーティング評価を上げるために、アリバイ工作的に非財務KPIを出しているところが多いようだ」と指摘する。

ESG投資を意識する金融機関などは、企業に対する投融資の判断基準の一つとしてESGの情報開示を求めている。名和氏は「大半の企業の非財務KPIは、投融資に支障が出ないようにという義務感先行型で、単なるESGのチェックボックスにしてしまっている。将来の企業価値につながるという確信をもってやっているところは少ない」とみる。

では、本来の非財務KPIのあるべき姿とは何か。名和氏は、「非財務KPIは未財務KPIやプレ財務KPIという言葉に置き換えてもいい」という。「非財務というと一見、財務と関係ないようにも聞こえてしまうが、そうではない。CSR的な活動ですら、顧客や社会にファンをつくり、それが財務のリターンにつながりうる。ただ、直接的ではなく間接的なものなので、『風が吹けば桶屋が儲かる』のように、財務の先行指標として連鎖の因果関係を示すことが大事だ」と語る。

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