倒産した社長が粉飾決算を真実と信じ込む不思議 最も避けたい「最悪の結末」の最短ルートなのに

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そんなことよりも、自社が先細りしていく問題に経営者として対処できなかったことについて、忸怩(じくじ)たる思いがあります。人口減少、他社との競争激化、ネット通販の台頭。当社を取り巻く経営環境は厳しくなる一方だと分かっていたのに、出店を継続してしまった。どこかでブレーキをかけて既存店で戦っていく方法を模索したほうが、生き残れる可能性は高かったのではないかと思います。
そうした選択肢は当時も頭にはありましたが、金融機関の借り入れを維持するには、出店拡大は分かりやすい手段でした。会社が成長していると金融機関に思ってもらいやすいですから。「また出店ですか。順調ですね」と、営業担当者に満足そうに褒められたことは何回もあります。
粉飾した決算で融資を簡単に引き出せるのは楽です。そうして、規模の拡大に安易に逃げてしまった点は否めません。結果的に、「厳しくなる一方の経営環境の中でどう経営していくか」という問題に対して、きちんと向き合えなかった。本末転倒ですよね。
売り上げや利益の先細りを食い止められない。もう無理だと思って、会社を畳むことにしたのです。

粉飾の末に逮捕された焼きとりチェーン社長

いかがでしょうか。私たちに胸のうちを明かしてくれたこの経営者が後悔していたのは、問題の本質に向き合えなかったことでした。

粉飾にはもちろん法的なリスクもあります。しかし、法的リスクを訴えるだけでは、粉飾の誘惑を断ち切れないのは、「粉飾倒産がコロナ禍を脱する今から増えてくる訳」(7月7日配信)でもご説明した通りです。経営者の多くは、「法律を守ることは大事だが、わが子同然の会社を存続させることはもっと大事」と考えているはずです。

しかし皮肉なことに、粉飾経営はいちばん避けたい「最悪の結末」への最短ルートでしかありません。

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