一方、「スピード違反」となっているインフレ指標に関しては、逼迫していた世界的な財市場における需給バランスには改善する兆候がみられる。地政学リスクが影響する商品市況については不確実性が残るが、それ以外の財市場全般の価格上昇圧力は峠を越えているのではないか。
また、アメリカ国内においても、2021年までのまれにみる経済刺激策がもたらしたブーム的な成長は終わり、上振れた賃金にも頭打ちの兆しがある。今後予想される成長減速が、インフレの抑制要因になるだろう。
FRBの政策転換をもたらしたのは、中古車価格が再び上昇に転じたことが一因になり、インフレ率が予想外に上振れたことである。ただ、アメリカにおいては、懸念された中国発の供給制約が影響する兆しは見られない。極めて低い水準にある在庫の復元が今後進めば、自動車の価格上昇も止まる可能性が出てくる。
このため、高インフレが和らぐ兆候は、早ければ秋口から増えるとみられる。こうなれば、FRBが現在想定しているとおりに、利上げ幅は年末にかけてペースダウンする。FRBの政策への不信感が和らぎ、利上げとインフレが止まらないとの懸念も薄れていくとみられる。
株は4~6月期決算発表後に再度下落の可能性も
この筆者の見立てが正しければ、2022年末までにはアメリカ株市場の下落基調に歯止めがかかると予想される。ただ、その時期を意識すべき局面ではあるが、すぐに焦って投資する必要はないとみている。
というのも、投資タイミングを考える1つの材料に、企業アナリストによる利益予想がある。依然、企業アナリストらによる企業業績予想の下方修正はかなり限定的である。これまでのアメリカ株下落のほとんどは、長期金利上昇によるバリュエーション調整(株価収益率を物差しにした企業価値の低下)で説明できるだろう。
アメリカで7月中旬から予定されている4~6月期の決算発表を受けて、企業業績の下方修正が株価の後追いで起きて、これが一段の株安をもたらす局面が想定される。ただ、楽観的にみえる企業業績予想が後追いとして下方修正されることは、2022年末にかけてアメリカ株が底入れする条件の1つになると思われる。
景気後退を半ば織り込んだアメリカ株市場の下落によって、筆者のアメリカ株への慎重な見方は若干和らいだ。インフレや経済動向について不確実性は残っているが、それでも高インフレを抑制するFRBの政策対応は効果が現れると筆者は考えている。FRBの大幅利上げに迫られる経済環境が落ち着いていくことを見据えながら、年末までの時間軸でアメリカ株市場は底入れを迎えるのではないか。
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