台北メトロ「1日限定」駅メロディーは何のため? 宣伝媒体に活用、値上げ困難な中で収益拡大策

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実は台北MRTの「音」が変わったのはこれが初めてではない。2021年12月12日には、大手通販サイトとコラボし、改札通過時の音を配送料無料をアピールするものに変更、さらに30分限定で運賃を無料とするキャンペーンを実施した。また、今年1月にはブルーラインで「Smart Display Metro(スマート・ディスプレイ・メトロ)」と題し、客室に4Kの曲面ディスプレイや電子ペーパーを設置した車両を投入するなど、広告での収益強化を図る施策を積極的に行っている。

Smart Display Metroのつり革にはインクペーパーを設置(写真:台北メトロ提供)

これには、開業時より続いた路線拡張が一段落し、収益性の改善が急務となっているという事情がある。加えて、コロナ禍による2021年度の営業損失が50億台湾ドル(約227億円)にまで達していることも無視できない。となれば、本業の運賃を上げろという声も出るが、政府が進める公共交通機関の利用促進を理由として、開業以来運賃値上げを無理に行うことができないのだ。

実際、台北MRTの運賃は2020年、ICカード利用で一律2割引の制度を廃止、代わりに乗車回数に応じて11~20回の乗車なら10%、51回以上で最大30%の還元が受けられるキャッシュバック制と、2018年から実施しているバス・シェアサイクルを含めて1カ月1280台湾ドル(約5800円)の定額制で構成されている。区間や時間帯に限らず使うほどお得で、日本と比べ公共性が強く、収益確保を副業に頼らなければならない状況なのである。

「駅ナカ」できない中で副業開拓

台北MRTが取り組む副業は広告のみに限らない。台湾といえば台湾鉄道の駅弁が思い浮かぶ方もいると思うが、MRTでも温かい弁当のオーダー販売や、オリジナルコーヒーの販売などさまざまな試みを行っている。しかし、それらは大半が「駅ソト」。なぜなら、台湾には「大衆捷運法」という法律が存在し、改札内での飲食からガムを噛む事まで禁止されているためだ。

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それを克服しようと今年3月に、南京復興駅に開業したのが「Metro Corner(メトロコーナー)」と呼ばれる「駅ナカ」と「駅ソト」が融合したハイブリッド施設だ。改札内の乗り換え通路側にショップ、改札外に飲食スペースを増設し、乗り換え拠点における朝食や軽食のニーズに応えている。

今後、台北駅などに同種の施設を設置する計画や駅ビル建設の構想もあり、TOD(公共交通指向型開発)の概念や民間の資本を取り入れることで収益力の向上を図るという。また、広告事業でも、トンネル内での動画投影など新たな展開を検討している。清潔だが素っ気ないイメージも強かった台北MRTだが、近い将来変わった景色を見せてくれるかもしれない。

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小井関 遼太郎 東アジアライター

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こいぜき りょうたろう / Ryotaro Koizeki

台湾北部在住。観光や都市政策を中心に研究を進めている他、台湾のガイド資格などを保有しており現地事情に精通。台湾から見た東アジア情勢を中心に発信している。
E-mail : ryo120106@gmail.com
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