藤井聡太が熱戦「天空の対局場」とトヨタの深い縁 章男社長「ぜひともお役に立ちたい」と前のめり

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名古屋で拠点作りができないか、という連盟からの相談に、「対局場という場所の提供なら」とトヨタ社内で検討がスタート。候補に挙がった名古屋オフィスの会議室は、名古屋駅前という好立地で約200平方メートルという十分な広さ。これまで会議や展示会に使っていたが、社内ではコロナ禍でテレワークが進み、「会議室の利用度が低くなっていたことも理由の1つにある」と同社総務部管財室の瀧敏暢・第1管財グループ長は明かす。

ビルのエントランスやトヨタの受け付けを通過するため、セキュリティ的にも安心だ。そして、棋士が将棋に集中するための「がやがやとしていない、静かな環境」(常盤部長)であるなど、対局場としての条件を十分に満たしていた。

地上120メートルの対局場では夜景も堪能できる

会議室は地上から約120メートルの高さにあり、大きなガラス窓から名古屋の街を一望。対局が長引いたら夜景も堪能できて、棋士の気分転換になる。フロアには台を設置したうえに畳85枚を敷き、最大7対局が同時に行えるよう設えた。畳や銀の屏風、ついたてなどはトヨタ側が備品として提供し、光熱費なども負担する。

コロナ禍が落ち着きを見せ始め、会議室の利用ニーズが今後どうなるかは分からない。今回の貸し出しは期限を決めているわけではなく、いずれトヨタ側が会議室に戻す必要性が出てくるかもしれない。しかし、そうした場合でも「せっかくの縁なので、(すぐに対局場を閉めるのではなく)発展的に対応していきたい」と瀧グループ長は約束する。

名古屋将棋対局場のオープン初日に対局する藤井聡太五冠(左)と佐藤康光九段(写真:筆者撮影)

連盟の公式戦は年間3000局以上あるが、名古屋の対局場で実施するのは当面、年に100局ほど。数としては限られるものの、「話題性は提供できる」と常盤部長。「棋士にとっての利便性が上がり、地域の将棋文化が発展していくことの波及効果は大きい。名古屋でうまくいけば、将来的に他の都市にも広げられる」と期待する。

 これまで、企業の社会貢献や文化・芸術支援といえば、ホールや美術館の建設などが定番だった。しかし、コロナ禍で大人数を集められなくなり、閉館する民間ホールも相次いでいる。これに対して、大観衆を集める必要がなく、ネット中継で盛り上がる将棋の支援は、企業にとってアフターコロナにあった社会貢献になるのかもしれない。

関口 威人 ジャーナリスト

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せきぐち たけと / Taketo Sekiguchi

中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で環境、防災、科学技術などの諸問題を追い掛けるジャーナリスト。1973年横浜市生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科修了。

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