アサヒビール流グローバル人材育成術、語学よりも実務力を重視

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 三浦氏に尋ねると、「人事部だけでは判断できない。現在の上司たちの評価や考えも尊重している」と答える。これは、人事部と現場の責任者である管理職との連携といえる。ここにも、今回の施策のポイントがある。

現在、大企業では人事部の権限がしだいに管理職に移る傾向にある。直属上司が部下の評価はもちろん、育成、配置転換、時にはリストラの指名などにも強い権限を持つケースが増えている。人事部は、その調整をするだけになっている企業もある。

その理由には、成果主義の浸透などが挙げられる。業績を厳しく評価する以上、部下の近いところにいる上司にこそ、権限を与えるべきという考えである。これは一見すると合理的な動きに見えるが、実はいろいろなトラブルを引き起こしている。

同社の人事部は、その流れに流されていないようだ。たとえば、人事部の管理職らは年に1度、全国の支社、支店、工場などに出向き、そこの責任者である支店長、部長、マネジャーらにそれぞれの部下についてヒアリングをしている。勤務態度に始まり、仕事への姿勢、業績などを確認していく。

このことは見方を変えると、管理職らに一定の緊張を与えることにもなるのだろう。そして、全社員の“データ”が人事部に蓄積されていく。こういう試みは、よく言われるところの“人事評価の二重基準”、つまり、人事部が作る評価基準とは別に、管理職らが独自のモノサシで部下を評価する問題を防ぐことにもなりうる。

「そのような問題が起こりうることを想定し、人事異動のときは、十数人の人事部員が手分けして支社・海外のグループ会社などにも出向き、社員の上司らと話し合い、職場の状況や社員の成長意欲などを確認している」(三浦氏)。

大企業では、人事部員が現場に足を運び、1人ずつの社員の見取りをしている例は非常に少ない。社員数3600人を超える企業の人事部が特に人事異動のときに、このような試みを行うことは注目に値する。業界や企業の規模にかかわらず、異動の際には上司と部下との確執などが時折見られる。必ずしも、その配置転換が組織にとってメリットがあるとは言い切れないこともある。

その意味でも同社の取り組みは、大企業としてはきめ細かな対応と言える。

しかし、このような仕組みとなると、人事部内には社員らの“査定ランキング”があり、今回は「試験を行う前に結果が出ていた」のではないだろうか、という疑問も湧く。

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