アサヒビール流グローバル人材育成術、語学よりも実務力を重視
公募の際にはTOEICなどの英語力を自己申告させたが、そこでたとえば、700点以下を不合格にするといった基準は設けなかった。このあたりの事情について三浦氏は「語学力よりも実務力を重視するほうが、当社の海外戦略にとって意味がある」と語る。
ここが、今回の施策を読み解くうえで1つのポイントになる。つまり、海外進出という事業戦略と、人事戦略が表裏一体となっているのである。
同社の現時点での海外戦略は、M&Aなどにより海外のパートナー企業を増やすことに重きが置かれている。海外要員は相手先の企業に行き、そこの現地社員にアサヒビールのさまざまなノウハウを伝え、また相手先のノウハウを学ぶ。人事部としてはそれにより、双方がさらに発展していくことを考えている。
これを踏まえると、選ばれる社員は海外でも実務をわかりやすく教えることができ、マネジメントができる職務遂行能力を兼ね備えていることが前提になる。
三浦氏は、付け加えた。「私たちが求めるのは、T字型の人材。縦軸は、得意な業務。横軸はその実務力を国内のほかの部署やグループ会社、さらには海外で汎用化させることができる力を意味する。語学力もその意味で横軸の1つ。今回の選別では、特に縦軸がどのくらいしっかりしているかを確認した」。
人事部が、海外進出という事業戦略を意思決定する経営陣の真意をよく酌み取っていることがわかる。
流れに流されない、人事部
実は、大企業においてもこのように事業戦略と人事戦略が表裏一体になっているケースは多くはない。その象徴が、新規や中途の採用のあり方といえる。景気に必要以上に翻弄されて好景気になると大量採用、不況になると大幅にリストラ(人員削減)という状況に陥りやすい。そこでは、事業計画などを意識する姿勢があまり見られない。
このような事業戦略と人事戦略の乖離は人事戦略の、たとえば昇進、昇格、配置転換、リストラなどさまざまな面で見られる。今回の海外要員の選別を見ているかぎり、アサヒビールにはそれが見られない。
では、語学力ではなく実務力で選ぶならば、それはどのように判断しているのだろうか。