広電が採用、ついに開始「大形連接車」の全扉乗降 最寄り扉での乗降が当たり前でない日本の現実

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旧西ドイツで1950年代に、わが国と同じ方式のワンマン運転が試みられたが、運賃収受に時間を要するために定員60人以下の小形車両にしか適用できないと判断され、路面電車には採用されなかった。1960年代後半にスイスで革新的な運賃収受方式「セルフ乗車(注1)」が案出され、長さ40m、定員336人、「全扉乗降」、ワンマン運転の路面電車が登場した。路面電車は「セルフ乗車」の導入によって、近代的な都市交通システムに変身した。この方式は西ヨーロッパの多くの国に普及した。

これを見たアメリカ、カナダ、フランス、イギリスなど、すでに路面電車をほとんど撤去した国々など多くの国で、1970年代末から復活、新設が相次ぎ、その数は200都市に及ぶ。これらの近代化された路面電車は「LRT(注2)」 と呼ばれる。

他国の良いところは学ぶべきだ。「東は東、西は西」と決めつけ、永年にわたって運賃収受の行列と車内移動を乗客に強いてきたわが国の公共交通は、やはり異端だ。

注1)この方式を生んだスイスでは「セルフサービス方式」と呼ぶ。乗客のセルフサービスにより読取機や消印機で乗車券をセルフチェック(改札)し、全扉で乗降する。「信用乗車」とも呼ばれるが、これは誤訳であり、乗客を信用するかどうかはこの方式とは無関係。
注2)Light Rail Transitの略。近代化された路面電車システムのこと。全扉乗降のほか、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する。これらの特徴を発揮するには、「セルフ乗車」の導入が不可欠。

活かされない教訓

「わが国で初めての本格的LRT」と言われ2006年に開業した富山ライトレール線は、旧式な運賃収受方式のワンマン運転ゆえに、運賃収受に時間を要しダイヤの乱れと踏切(路線の大部分は旧JR富山港線の転用であり、踏切がある)の遮断時間増大による国道渋滞が発生した。急遽、ICカード利用者は乗車扉からも降車できるように対処した。

しかし、この教訓は忘れられ、水平展開もされなかった。2013年から福井鉄道が導入した長さ27m(富山ライトレールの車両より長く、広島電鉄の30m級とほぼ同じ長さ)もの低床車は、旧式の運賃収受方式のワンマン運転であり車内移動が大変だ。さらに、富山ライトレールと富山市内路面電車の会社合併による直通運転開始時(2020年3月)に、乗車扉からの降車扱いを取り止めた。旧富山ライトレール線の所要時分は増大(約5分=20%)し、利便性が低下した。

「セルフ乗車」の導入議論は常に劣後されてきた。「不正乗車が物理的に阻止できないから不公平だ」や、「公共交通も独立採算が原則だから、運賃逋脱のおそれがある方式の導入は無理」との意見が強い。

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