迫る参院選で「優勢」の岸田自民党、実は死角だらけ コロナ対策や景気対策、防衛費増額など難題山積

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まず、ウクライナ戦争や中国の台頭によって、日本でも安全保障についての関心が高まり、アメリカとの同盟関係を強め、国内的にも防衛力を整備していくことが必要だという国民の意識が強まっている。それが自民党政権の安定を求める意識にもつながっているだろう。

加えて野党の分断である。2016年、2019年の参院選で野党陣営は1人区を中心に連携し、一定の成果を出した。しかし、2021年の衆院選で立憲民主党と共産党が連携したにもかかわらず、伸び悩んだ。

それを受けて、同じ旧民主党系の国民民主党は国会での予算案の採決で賛成に回るなど自民、公明の与党に接近。維新も立憲民主党とは距離を置いて独自の路線を歩んでいる。この参院選で野党候補は乱立模様で、結果的に自民党候補を利する形となっている。

参院の定数は現在245。今回124議席が改選される(比例区50、選挙区74=補選を含む)。自民、公明の与党には、非改選の70議席があるので、過半数の123議席を占めるには今回、53議席を確保すればよい。自公両党は、前回(2019年)70議席、前々回(2016年)76議席を取っているので、岸田首相にとってのハードルはかなり低い。

「憲法改正は急ぐ必要はない」が岸田首相の本音

参院選が波乱のないまま、自公の勝利、岸田政権の存続となったとしても、ここに列挙してきたさまざまな政策課題は、選挙後も待ったなしで取り組まなければならないものばかりである。

自民党内には、参院選で勝利したら憲法改正に取り組むべきだという意見もあるが、実際にはコロナ対策や景気対策、防衛費増額など当面の難題が山積しており、憲法改正に注ぐ政治的エネルギーは残らないだろう。岸田首相はそもそも、宏池会の「護憲DNA」を引き継いでおり、憲法改正を急ぐ必要はないというのが本音だ。当面の政策課題に政権の力を振り向けることになるとみられる。

岸田首相が参院選を乗り切れば、任期が3年あまり残っている衆院の解散・総選挙は当面なさそうだし、次の参院選は3年後。そのため、政権にとっては「黄金の3年間」となるという見方がある。

だが、それは政策課題に疎い「政局記者」たちの皮相な見立てだろう。参院選を勝ち抜いても、岸田首相を待つのは「黄金の3年間」ではなく、次々と難題に直面する「七転八倒の3年間」になるだろう。

星 浩 政治ジャーナリスト

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ほし ひろし / Hiroshi Hoshi

1955年生まれ。東京大学教養学部卒業。朝日新聞社入社。ワシントン特派員、政治部デスクを経て政治担当編集委員、東京大学特任教授、朝日新聞オピニオン編集長・論説主幹代理。2013年4月から朝日新聞特別編集委員。2016年3月からフリー。同年3月28日からTBS系の報道番組「NEWS23」のメインキャスター・コメンテーターを務める。著書多数。『官房長官 側近の政治学』(朝日選書、2014年)、『絶対に知っておくべき日本と日本人の10大問題』(三笠書房、2011年)、『安倍政権の日本』(朝日新書、2006年)など。

 

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