プーチンを礼賛してきたポピュリストらが、評判を落としていることも追い風だ。イタリアのマッテオ・サルビーニやフランスのマリーヌ・ルペンをはじめとするポピュリストたちは、ウクライナ侵攻が始まるや、大慌てでロシアと距離を置くようになった。
「地政学的欧州」の誕生
欧州には、移民に自らの所得や社会的な地位を脅かされていると怒りを募らせている人々が多く、これがポピュリスト躍進の原動力となってきたが、今回のウクライナ危機で難民への新たな同情心が広がった。フランス大統領選挙の1回目投票に向け、ウクライナ侵攻前までルペンと競り合っていた極右候補のエリック・ゼムールは、ウクライナからの難民受け入れに公然と反対したのをきっかけに支持を一気に失った。
難民への新たな同情が長続きしなかったとしても、プーチンの脅威は依然として残り続ける。西欧の有権者は、ウクライナの戦争を目の当たりにして、平和で安全かつ自由な国々で暮らす自分たちがいかに恵まれているか、改めて気づかされた。問題だらけの民主主義であっても、独裁よりははるかにマシだ。
内部の分断に何年もさいなまれてきた欧州は、東西冷戦期と同様、恐るべき外敵に対抗するため結束を余儀なくされるようになっている。EUは今、国家・エネルギー・経済の安全保障を一丸となって強化することで自らの真価を証明する、黄金のチャンスを手にしているといってよい。
EUの外務・安全保障政策上級代表ジョセップ・ボレルは先日、プーチンの戦争は「地政学的欧州」を生み出したと論じたが、これは正しい。欧州の安全保障を改革するフランスの野心は、EUの巨大化に反発して北米との関係強化に傾斜した英国と、経済重視の平和主義を掲げるドイツによって幾度となく阻まれてきた。しかし、英国はもはやEUの加盟国ではなく、ドイツも以前より軍事重視の安全保障戦略を取り入れるようになってきた。
欧州の人々の目には今、EUの最重要目的が怖いほど鮮明に映るようになっている。その目的とはずばり、プーチンのロシアのような脅威に対する防衛だ。
(C)Project Syndicate
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