「日本株は大幅な円安だから上昇継続」でいいのか 1ドル=120円超のドル高円安が示唆すること

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過去、そうした意味合いでのドル高がかなり進んだのは、2020年3月のコロナ禍の渦中であった。足元のドルの名目実効レートは、当時の水準にはまったく及ばないが、2021年半ばからのドル高傾向により、新型コロナウイルス感染症の流行が最も懸念された時期を除けば、ドルの総合的な水準は過去最高に近い。

つまり、ドルはすでにかなり高値まで買われてしまっているといえ、もし円安が一層進むのなら、対ドルより対ユーロや対豪ドルなど他通貨に対してのほうがまだ余地がありそうだ。

為替の「日本売り」が日本株にも及ぶ懸念

以上から、円安が対ドルで進んでも大幅なものにはなりにくいと見込んでいるわけだが、一方で、まだもう少しドル高円安になる、あるいは今のような水準の円安が続いてしまうという可能性も高いと予想する。

足元で世界の投資家の間で最も話題になっていると感じるのは、日本と他国の金融政策の差による、「日本売り」的な様相だ。その金融政策の差は、直接的には欧米主要国が緩和縮小を進める一方で「日本銀行が動かない」ということにあるが、世界の投資家はむしろ「日銀が金融政策を変えることができない、情けない日本」とみなしつつあるようだ。

その日米の差の背景は、2月14日付の当コラムでも述べたとおりだ。まとめると、以下のようになる。

アメリカでは、企業はこれまでと同様、コスト増を販売価格に躊躇なく転嫁し、企業収益を防衛する。そのため、家計は「値上がりが続きそうだから、今のうちに買おう」としがちで、例え手元の現金が不足していても「賃金が上がっており、クレジットカードやローンで購入しても、将来の所得増で容易に返済できるだろう」と考える。

一方の日本では、企業は「値上げすれば売れ行きが落ちる」と懸念し、「企業努力」により値上げを極力回避しようとする。結果として、企業収益が圧迫される。加えて、この「企業努力」には従業員の賃金抑制も含まれる。そして家計は、大幅な賃金上昇を見込みにくいため、企業が耐えきれずに価格を引き上げると、「節約に努め、購買を大いに削減しよう」と防衛的になりやすい。

今後の日本の株価に話を戻すと、世界的な株高につれて上昇基調をたどるとは考えている。だが、為替市場における「日本売り」が株式市場にも広がり、日本株上昇の速度が抑えられることが、いつかは起こるかもしれない、と心配している。

(当記事は会社四季報オンラインにも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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