大規模な幸福度調査を分析 子育てなど政策面の示唆も
評者/北海道大学大学院教授 橋本 努
「幸せの形は人それぞれ」とはいえ、日本人の幸福度は概して低いと言われる。しかも米ギャラップ社の世界幸福度報告によると、日本人の幸福度の順位はだんだん下がってきた。2012年から15年までは40位台、16年以降は50位台、20年は62位となっている。
むろん、同調査は世界150の国と地域を対象としたものなので、日本の順位はまだ相対的に高い。では、幸福度が高い国々と比べ、日本人には何が足りないのだろうか。
本書は国内30万人、世界10万人という大規模な幸福度調査を分析した報告で、とりわけ幸福度1位のフィンランドとの比較が興味深い。
日本とフィンランドの大きな違いの1つは、夏季休暇の長さである。日本では平均1週間であるが、フィンランドでは約1カ月。この休暇期間の違いが余暇に対する満足度に影響を与えているという。
一方、日本人もフィンランド人も「自然との触れ合い」は同程度に享受しているものの、「代々モノを受け継ぐ」とか「リサイクルやごみの減量をする」といった環境配慮行動においては、大きな差が出る。日本人はどうも、自然と融和しながら、環境には十分に配慮していないようである。この意識の違いが両国の幸福度の差として表れているのではないかと本書は指摘する。
幸福度の測り方は、2つに大別される。1つは感情の状態を測るもので、「過去1週間にどんな感情を抱いたか」などを問う。もう1つは「人生の評価指標」と呼ばれるものを利用する。例えば「考えうる最も良い生活と最も悪い生活のあいだで自分の生活はどの段階か」などを問う。自分と「誰か」の比較になり、測られるのは相対的な幸福度だ。
いずれの場合も、幸福度は世帯所得とともに上昇する傾向にあるが、前者の感情的な幸せはある程度の所得水準で頭打ちになる。人生に対する評価も、多くの国では一定の所得水準で頭打ちになるのだが、日米英の3カ国は例外で、所得とともに上昇し続けるという。日本人は依然として経済的成功を幸福に結びつける思考習慣が強いようである。
本書からは政策面での示唆も得られる。例えば未就学児の子どもを持つことは幸福度のプラス要因になるものの、小学生以降の子どもになるとマイナス要因になるという。はたして子育てを幸福に結びつける良策はないものか。また、裁量労働制は人々を幸福にしないという結果もある。
幸福研究の最新成果から、日本の課題をさまざまに提起した良書である。
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