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『くらしのアナキズム』 『世界「失敗」製品図鑑 「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道』ほか

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自らの問題は自ら解決を カギ握るコミュニティー再生
評者/BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

『くらしのアナキズム』松村圭一郎 著(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile]まつむら・けいいちろう 1975年生まれ。岡山大学文学部准教授。専門は文化人類学。所有と分配、海外出稼ぎ、市場と国家の関係などについて研究。著書に『うしろめたさの人類学』『はみだしの人類学』、共編著に『文化人類学の思考法』『働くことの人類学』など。

近年日本でも、甚大な風水害や大地震で、行政サービスが長期間滞るといった事態が頻発している。あるのが当たり前と思っていた既存の国家システムが機能しない時、私たちはどうやって日々の暮らしを守るのか。

著者は、国家に頼らずに生きてきたエチオピアなどの人々を長く見つめてきた気鋭の文化人類学者だ。自らの問題を自らの手で解決する知恵としてのアナキズムを論じた。

アナキズムといっても、革命を起こして無政府状態を目指す、といった話ではない。現代のアナキズム論は、革命によってひどい政府が倒れても、さらにひどい政府が取って代わるだけ、というのを先刻承知だ。

もともと文化人類学は、西欧が未開社会とみなす領域において、国家がなくても、民主的で平等な社会が築かれていたことを見出していた。のぞき込むと、経済格差を抑えるための先人の知恵が至る所に組み込まれているという。際限のない欲望を抑え込むために、古い因習に人々を閉じ込めてきたわけでもない。

先行研究によれば、国家管理が不在の領域で、コミュニティーが合意を生み出す際に、民主主義が生まれていた。合意形成の過程で白黒をつける採決は決して選択されていない。投票で少数派の意見を否定すると、コミュニティーの存続が危うくなるからだ。

日本でもつい最近まで、村の寄り合いなどで、納得がいくまで自分たちの問題をとことん話し合う営みが存在していた。多数決で決めるのが民主主義という常識を私たちは考え直すべきだろう。そういえば、長く政権を担う自民党の総務会は、党内で意見が割れる案件でも、侃々諤々(かんかんがくがく)、長時間話し合ったうえで、採決などせず、貸し借りも交えて、全会一致として決定してきた。しこりを残さず、皆が長くやっていくための知恵だが、党派を超えた熟議の場を導入することはできないものか。

将来、財政危機で地域の行政サービスが瓦解した時の準備として、評者は本書を開いたのだが、思いがけず、コミュニティー再生に資する1冊に出合うことができた。自分たちの問題を自分たちが解決できるのなら、財政破綻といった事態も避けられるはずだ。

時の首相が新自由主義的政策を反省するのはよいが、市場の領域を狭め、国家の領域を広げるだけなら、国家と大企業の結託が跋扈(ばっこ)するだけだろう。国家と市場が侵食してきたコミュニティーの再生がカギとなるが、まずは暮らしの中の身近な人間関係を日頃から耕しておくことが肝要だ。

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