「無料お試し」の奥深さを事例交え、丁寧に解説
評者/スクウェイブ代表 黒須 豊
本書は、端的に言えば、プロダクトを無料で使わせることから始まるプロダクト主導型のビジネス成長モデル(以下、PLG)の指南書である。
プロダクト主導型と聞くとプロセス指向の対極概念を想起するが、ここでは、以前から存在するサービスの無料お試し期間等と基本的には同じ概念と考えて問題ない。
ただし、単なる無料お試しモデルの話ではない。フリートライアル、フリーミアム、デモの違いなど、奥の深さに気づかされ、読み始めるや興味深い話に一気に引き込まれてしまった。
本書は、特にSaaS(サービスとしてのソフトウエア)ビジネスにおけるPLG成功への道筋を、セールス主導型との比較を踏まえて丁寧に解説しており、わかりやすいうえに読み応えもある。
例えば、PLGと相性の良い販売戦略はボトムアップ型である。SlackやZoomなどのSaaSビジネスが代表例であり、個々の顧客の経験を通じてその裾野を拡大する場合に適している。
他方、役員クラスから説得していくトップダウン型の販売戦略とは相性が良くない。 トップダウン型の販売戦略には経営資源の有効活用という観点から企業全体を統合的に管理するERP(Enterprise Resource Planning)が適している。
言うまでもなく、PLGを導入したSaaSビジネスの全てが成功しているわけではない。成功に向け、具体的にどのような料金体系を構築すべきなのか、いつ、どのように顧客とコミュニケーションを取っていくべきなのか、経営者の疑問は尽きない。
本書はこれらの重要な疑問について、網羅的かつ体系的に解説する初の本格的な1冊と言えるだろう。
顧客をサービスにオンボーディングさせるための手法として、ボウリングレーン・フレームワークが紹介されていて、これがとても興味深い。
顧客に適切にボールをピンに向けて投げさせる(自社サービスを適切に利用してもらう)ための仕組みを念頭に置いた比喩であるが、適切なタイミングで適切なコミュニケーションを図るための、タイミングや、メール文の実例まで紹介している。
著者曰(いわ)く、PLG導入によって、プロダクトを利用する顧客の経験をよりよくすることに社員全員が集中し、その結果、開発と営業の間にある障壁も解消する。
本書は、多くの経営者にヒントを与えてくれる可能性があるだろう。
この記事は有料会員限定です。
東洋経済オンライン有料会員にご登録いただくと、有料会員限定記事を含むすべての記事と、『週刊東洋経済』電子版をお読みいただけます。
- 有料会員限定記事を含むすべての記事が読める
- 『週刊東洋経済』電子版の最新号とバックナンバーが読み放題
- 有料会員限定メールマガジンをお届け
- 各種イベント・セミナーご優待