トヨタが異例の戦略、FCV特許開放の必然 普及加速のためにはこれしかない?

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FCVは既存のガソリンスタンドでは水素を充填できないため、専用の水素ステーション(ST)が必要だ。一般ユーザーが入れられる商用水素STはまだ東京、神奈川、兵庫、福岡の4カ所だけ。今年3月末までに12カ所増えるが、それでもまだまだ足りない。水素STは建設費だけで5億円弱かかるとされる。政府は規制緩和や補助金で普及を後押しするが、FCV自体の普及台数が少なければ、採算が見合わない。

通常のコンシューマ製品なら、特許の壁を築き他社が追随できないようにして利益を享受するという考え方もある。だが、ゼロからのスタートとなるFCVの場合、他社が参入してくれなければ、水素STなどのインフラ整備も進まない。豊田社長の言葉通り、トヨタ1社でFCVの普及は進められないのだ。

ライバルはトヨタの決断を歓迎

「FCVが普通の車になるための長い長いチャレンジの始まり」。ミライ発売に当たり、トヨタの加藤光久副社長がそう語ったように、FCV普及には10年単位でかかる。豊田社長は「東京オリンピックのある2020年。そこから50年後の2070年へのスタート」と覚悟を示すように超長期戦だ。

日産自動車の志賀俊之副会長は今回の決定について、「トヨタさんの英断。新しい技術には協調領域と競争領域がある。協調領域はオープンイノベーションでコストを下げたほうがいい。技術を開放されるのはすばらしい」と絶賛する。ホンダ会長で日本自動車工業会の池史彦会長も「歓迎すべき動き」と評した。

環境問題やエネルギー問題を考えると、大手自動車メーカーでFCVをまったくやらないという選択はない。だが、インフラ整備を含めて膨大なコストと時間がかかる。この先に画期的な電池が開発・量産化されれば、FCVは一気に不利な立場に追い込まれかねない。トヨタとしては自社だけが先行する状況は好ましくない。異例ともいえるオープン戦略をとったのは、独走とそれゆえの孤立ともいえる。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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