なぜ脆弱な北朝鮮が強気を貫けるのか?--ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ


 中国は、核武装した北朝鮮や好戦的な北朝鮮を望んでいるわけではない。しかしそれ以上に、北朝鮮が破綻国家になることを恐れているのである。中国は北朝鮮に対し、中国と同じように市場経済化するよう説得を試みてきた。だが金正日は、経済開放は政治開放につながり、独裁的な権力を失うことを危惧している。中国は現在の危機を沈静化する努力をしているが、その影響力は限られている。

北朝鮮のもう一つの力の源泉は、弱い手持ちカードで大胆なゲームを行っていることだ。もし全面的な軍事的侵攻を行えば、韓国軍と米軍にたたきのめされる。米韓海軍の黄海での軍事演習は北朝鮮に海軍力の差を見せつける意図があった。

けれども北朝鮮は、ソウルに向けて数発の砲撃を加えるだけで韓国の株式市場と経済に大混乱を引き起こすことができる。大きなリスクを冒す覚悟があることを誇示することで、北朝鮮は交渉力をさらに強めようとしているのだ。

多くの専門家は、最近の挑発行為の背後に権力の継承の問題があると見ている。多くの報告は、「金正日の引退は近い」と予測している。昨年の秋、彼は息子の金正恩を将軍に昇格させ、共産党の式典でお披露目した。軍事的に体制“維持”に成功したことを示すことで、28歳の金正恩将軍の権力継承を明確にする狙いがあるのだろう。もしそうであるなら、最近の危険に満ちた行動は、世襲的共産主義王朝の結束を図る戦略の一環といえる。

(週刊東洋経済2011年1月8日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

Joseph S. Nye, Jr.
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

photo:Kristoferb Creative Commons BY-SA

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