なぜ脆弱な北朝鮮が強気を貫けるのか?--ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ
その後、外交交渉は行き詰まり、北朝鮮は日本海に向けてミサイルを発射。国連安全保障理事会の常任理事国5カ国がそろって北朝鮮非難決議で合意し、中国は北朝鮮に対して行動を慎むように警告した。これに応えて北朝鮮は06年に核施設を爆破し、09年にも同じ行動を取った。
北朝鮮は経済システムが崩壊した弱い国である。50年前には韓国と同じ経済レベルだった。その後、韓国は世界で最も繁栄を遂げた国の一つになり、国民1人当たり所得は3万ドル(購買力平価換算)まで増加。一方、北朝鮮の1人当たり所得は2000ドルにも満たない。90年代に北朝鮮は大飢饉に見舞われ、100万~200万人が餓死したといわれている。現在でも北朝鮮は食料と燃料を中国に依存している。
弱者だからこそ交渉力が増す
そんな脆弱な北朝鮮がなぜ韓国を挑発できるのだろうか。
まず、北朝鮮は“弱者の力”を持っている。ある種の状況では、弱さは交渉力の源泉となりうる。1000ドルの債務を抱えて破産した債務者はほとんど力を持たないが、10億ドルの債務を負う債務者は非常に大きな交渉力を持つ。08年の金融危機の際、“大きすぎて潰せない”との理由から生き残った金融機関と似た存在だ。
フィナンシャル・タイムズ紙は「金正日は中国に無力感を感じさせる世界で唯一の指導者かもしれない」と書いている。ある外交官は、「金正日は中国のおそれを利用している。中国が北朝鮮に対する援助を中止すれば大量の難民が中国に流れ込み、騒乱が起こる可能性もある」と指摘している。