世間の大きな注目を集めた判決は遺族側の逆転勝訴だった。2007年12月にJR東海・東海道本線共和駅(愛知県)で認知症の男性A氏(当時91)がはねられ、JR東海が遺族(妻と子4人)に対し振り替え輸送費用など約720万円を求めた裁判で、最高裁判所はJR東海の請求を棄却した。
焦点となったのは家族の監督責任だ。妻(93)について一審の地方裁判所は妻固有の不法行為責任(民法第709条)を、二審の高等裁判所は民法第714条第1項にいう認知症患者に対する「法定の監督義務者」としての責任を認めた。いずれもA氏の行動を制御して他害行為を止めることができたという判断だ。
一方、長男(65)については、地裁が介護方針を決める重要な役割を担っていたとして責任を認めたのに対し、高裁は別居しており介護補助者にすぎないと否定していた。
そして最高裁判決は長男だけでなく、妻の責任も否定。民法上の法定の監督義務者に該当する根拠がないと判断したのである。さらに監督義務者に準ずる者にも当たらないとした。準ずる者に該当する基準は、認知症患者との接触やその他の諸事情を総合考慮して「認知症患者を現に監督しているか監督することが可能かつ容易であるなど、衡平の見地から認知症患者の行為に対する責任を問うべき客観的状況にあるか」というもの。要するに「できない者に監督責任は負わせない」ということだ。
今回の訴訟では妻も高齢で要介護1の認定を受け、A氏の介護では親族の補助を得ていた、という点を指摘。「他害行為防止の監督は現実的に可能でない」としている。
どの程度の監督義務で免責されるかが不明
ただし今回の最高裁判決では、認知症患者に対する監督義務が仮に認められた場合、どの程度の監督義務を尽くせば免責されるのかについてまでは論じられていない。それは今後の議論を待つことになる。
国土交通省の調べでは、14年に鉄道事故で当事者として亡くなった認知症患者は22人に上るという。日々の介護に追われていた遺族にとって、認知症患者による事故の損害賠償を請求されることが酷な場合も確かにあろう。
鉄道事業者が列車の高速度運行という危険を前提に利益を上げていることは否定できない。だが鉄道は公共交通機関としての使命も持ち、高速化は地域や利用者の要望でもある。高速化を求められ、認知症患者を主体とした事故が発生したら事業者が負担するというのでは、はしごを外されたようなものだろう。
認知症患者、鉄道事業者のどちら側から見ても、今回の判決だけで十分な判断とはいえない。今後10年内に認知症患者の数が700万人を超える可能性も指摘される中、「監督責任をめぐる要件」という法律の世界の狭い議論にとどめるのではなく、社会の問題として広くつなげていくことが不可欠だ。























無料会員登録はこちら
ログインはこちら