大学が直面、学生は対面より「オンライン授業のほうがいい」の危うさ 芝浦工大が問いただすキャンパスの存在意義
「自己管理ができていて勉強する習慣のある学生は心配不要ですが、大学へ行くのが面倒だという理由で、ハイブリッド(ハイフレックス)型授業を在宅受講している学生がいないとも限りません。大学としてはこのような学生にこそ、キャンパスに来てほしいのです」
実感を伴う実験・実習こそが工業大学の教育の核心
そこで22年度からは授業出席の方針を「基本は対面」に改め、特別な事情がなければオンライン受講は不可とした。学生の申請がない限り、教員は授業に出席するためのZoom IDを公開せず、教室に姿を現さない学生は欠席とし、後から収録した授業を視聴させるという。

21年度の授業形式は、オンライン授業7割、ハイフレックスやブレンディッドラーニングを含む対面授業は3割程度だったが、22年度は講義型を中心にオンライン3割、対面7割になりそうだ。もちろん、つねにオンライン、対面の選択肢は残し、感染状況に応じて授業形式を切り替える体制は変えない。
「2年間のコロナ禍を経験して、大学は対面授業のあり方、キャンパスの存在意義を見直す時期に来ています」と説く。
例えば、海外協定校の学生とプロジェクトチームを結成しさまざまな課題の解決に取り組む「グローバルPBL」をオンラインで実施したり、海外の著名な教授を招聘して同時双方向型授業を展開したりするといったことは、芝浦工大ではもう普通のことになっている。
これはオンライン授業の明らかな利点だが、知識を供与するだけなら国内外の著名大学の講義が無料視聴できるOER(オープン・エデュケーショナル・リソース)やYouTubeでも十分可能だ。今後はそこで勉強した成果を大学が「試験」という形で評価するビジネスも成り立つかもしれない。
「そんな時代だからこそ、従来とは異なる『新しい対面授業』の価値を創造していく必要があるのです。そもそも大学とは教育理念に従って、目的とする人材を育成することにあります。工業大学のいちばん大事なプログラムは、キャンパスで学生自らが動き、実感を伴った実験・実習を行うこと。これを充実させることが重要です」
その一環として、4年次になると研究室に配属されて行う卒業研究の年次を、2年後には3年次に引き下げる計画を進めている。現状では研究室のスペースが足りないので、講義型の対面授業をオンラインに移行することで使われなくなる教室を研究室に再配置することを検討中だ。
芝浦工大では教育改革を進めるために「教育イノベーション推進センター」が中心となって、大学の教育力アップのための教員サポートと教学マネジメントを行っている。今後は、分野や学部などを超えた横断的な視点からカリキュラムの総合的な検討や期末試験のCBT化、組織的なFD・SD活動支援の強化などに注力し、教育DXに取り組む先進的な海外の大学に引けを取らない「SHIBAURA MODEL」の構築を目指すという。
こうした大学のDXが進めば、大学における勉強や生活に対する概念も大きく変わる。キャンパスのあり方も含めて、大学だからこその価値を見いだすことができるかが今後より重要となってきそうだ。
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(文:田中弘美、注記のない写真:すべて芝浦工業大学提供)
東洋経済education × ICT編集部
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