派遣法改正でITエンジニア30万人に迫る危機 雇用環境がますます不安定に

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厚労省が5万8,305人としている「特定労働者 」はソフト技術者全体の1割に満たないうえ 、これはまっとうな派遣契約で就労している人数で、後ろにはこの数倍が隠れている。ITエンジニア業界では4次請けも珍しくないという受発注形態の多重化もあって、契約は「受託(請負)」だが客先常駐や出向、同業者間で技術者を融通し合うなど、「就労実態は偽装請負と紙一重」というケースが散見される。ITエンジニアの世界では地下水脈のように実質派遣が広がっており、その数は30万人を超えていてもおかしくない、というのが業界に詳しい関係者の見立てである。

ソフト会社への影響は一時的

現在、特定労働者を派遣している事業者が派遣事業を続けるには、「基準資産額2,000万円×事業所数」「現金・預金1,500万円×事業所数」「基準資産額が負債総額の7分の1以上」「管理責任者講習の受講義務」「5年ごとの更新」――などといった要件に対応しなければならない。ソフト会社の多くは資本金が小さくて、資産も決して多くない。直接の影響はソフト会社ということになる。

だが、それは当面のことでしかない。多くのソフト会社は、派遣法改正案の成立を見越して準備を進めているし、発注元も「受託(請負)」契約を「派遣」契約に切り替えていくに違いない。ただ中長期的にみると、下請けに甘んじているソフト会社の取引ポジションはいつまでも変わらない。

さらにいうと、既存の「一般」(登録型)派遣事業者が、競争の優位性が見込めるIT分野に、より積極的に参入してくることが予想される。前出の厚労省資料でみると、ソフト開発業務の受注料金(8時間換算)の平均は、「一般」が2万4,947円なのに対して、「特定」は3万0,455円だ。

正社員型派遣を営んでいるソフト会社から優秀な技術者を引き抜けば、チームを編成してシステム開発案件の受注に乗り出すことも不可能ではなくなってくる。経営者の世代交代に合わせたM&A(企業の合併・買収)も起こりうる。

一方、原発注者(ユーザー企業)も勉強会を開いて改正派遣法への準備を進めている。「委託先企業や派遣されてくる技術者についてどこまで調査できるか」「派遣労働者から秘密保持誓約書を直接取得していいか」「派遣と直接雇用の交互異動は可能か」などだ。そのうえで品質や納期、セキュリティの観点から自社のコアシステムは内製か正社員型の派遣、コスト重視の周辺システムは正社員・登録型のどちらでも、という姿勢に転換する。正社員型派遣でまかなっている業務のかなりの部分が、登録型派遣に移行するということだ。

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