短命の名車、小田急「VSE」だけのレアな乗車体験 車体傾斜や連接台車が生み出す独自の快適性

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しかし、VSEが車体傾斜装置を搭載した目的は、曲線通過速度のアップではない。ほかの車両が超過遠心力0.08G以下で通過する曲線区間を、VSEは車体を傾斜させつつ同じ速度で通過しているわけだ。当然ながら車体を傾斜させている分超過遠心力は減少する。曲線によってはVSEの超過遠心力は0.046Gにまで減少しており、その分乗り心地が向上していることになる。

カーブを通過するVSE(編集部撮影)

車体傾斜装置を乗り心地向上にのみ使用しているのはVSEだけ。VSE以後に登場したMSEやGSEは車体傾斜装置を搭載していないので、この乗り心地は味わうことができない。

VSEと言えば前面展望席に目が行きがちだが、連接台車の乗り心地も体感しておきたい。連接台車は2つの車体を支えるような構造となっている。1車体に2つの台車を配したボギー車の車体では、台車よりも外側(車端寄り)に車体がはみ出すオーバーハングが存在するが、VSEにはそれがない。しかも2つの車体を1つの台車で支持するため、編成全体の振動も小さくなるというメリットがある。

VSEの連接台車(写真:小田急電鉄提供)

連接台車の空気バネの位置もVSEは独特で、通常の台車よりも1mも高く、窓の少し下となっている。これは車体の支持位置を重心に近づけたためで、床下に空気バネがある車両よりも車体上部の揺れが小さくなる。また座っている時の揺れの支点が足元から体付近となるため、乗り心地が安定する。

さらに連接台車には自己操舵装置を設けている。車体と台車枠を自己操舵制御用ダンパで連結し、曲線区間では台車を曲線方向に操舵させることで、車輪とレールの横圧を低減させる。これにより、曲線通過時の不快な軋り音も少なくなっているのもVSEの特徴だと言える。

独特の運転士搭乗風景も見ものだ

折り返し駅でのVSEの風物詩が運転士の搭乗風景だ。前面展望席があるVSEの運転台は2階にあり、運転台へ上がるための階段が非常口付近の通路上に設置されている。運転士が搭乗する際は、天井に格納されている階段が自動的に昇降するのだが、その光景が実にSF的でかっこいい。

運転台に出入りするための階段が降りた状態(写真:小田急電鉄提供)

以前は乗客が乗車した後に運転士が現れて階段を降ろし、乗客にあいさつをしてから運転台に搭乗。階段が格納されていた。最近は折り返し作業中に搭乗しているようだが、ホームから見ることができるので、ぜひ見ておきたい。

VSEの定期運用終了まで1カ月となり、乗車券を入手するのが難しくなってくるかもしれないが、VSEでしか味わえない乗り心地や「儀式」をぜひとも体験したい。

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松沼 猛 『鉄おも!』編集長

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まつぬま たける / Takeru Matsunuma

大阪府出身。明治大学文学部卒。株式会社三栄書房に20年間在籍し、編集者として世界各地を飛び回った。2008年12月から『鉄道のテクノロジー』編集長を務めた後、2013年5月に独立。現在は『鉄おも!』編集長のほか、『鉄道ジャーナル』『ニューモデルマガジンX』『カーグッズマガジン』、鉄道、自動車関連ムックなどに執筆。

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