大幸薬品VS消費者庁「クレベリン」巡る対立の論点 売上高の8割占める商品に会社も危機感強める

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地裁は22年1月12日に、置き型の2商品に対し、仮の差し止めを下した。大幸薬品によると、地裁は同社が提出した試験結果などが二酸化塩素による除菌・ウイルス除去効果の裏付けとなる合理的根拠に当たると判断した。大幸薬品は「『置き型』に関する仮の差し止めの申立てにおける勝訴」と、裁判所が同社の主張を全面的に是認したとも受け取れるタイトルのリリースを出している。

実際は、地裁はスプレー型やスティックペン型など、置き型以外の4商品については大幸薬品の主張を退けた。そのため同社は翌13日に東京高等裁判所に即時抗告をしている。大幸薬品には消費者庁長官に審査請求する手もあるが、ここまでの経緯と発表文面からすれば、処分取り消し訴訟に打って出る公算が大きい。国と真正面から法廷で闘争を繰り広げることになりそうだ。

また勝訴したと強調する置き型も安泰とはいえない。置き型に対する地裁の仮の差し止め決定を不服として、消費者庁も抗告しているからだ。地裁判決を受けた1月20日の消費者庁による措置命令は4商品を対象とし、置き型は除外されていた。だが高裁の判断を仰いだうえで、消費者庁が置き型を措置命令の対象に加える可能性は十分にありうる。

会社へのインパクトは大きい

裁判の行方はわからないが、高裁が大幸薬品に不利な判決を出す、最悪の場合は置き型でも地裁判断をひっくり返す可能性は否定できない。その際の同社への影響は極めて大きい。

クレベリン事業は20年12月期の全売上高のうち、約8割を占める。1度目の措置命令が下される直前期の14年3月期が4割台だったのに比べ、格段に規模が大きくなっている。コロナ禍での需要の高まりで、同社もクレベリンにさらなる期待を寄せていた。20年11月には大阪・茨木市で新工場を稼働させ、クレベリンの生産能力を19年比で最大10倍に増強させたほか、外部から専門人材を登用して製品パッケージや販売・広告などマーケティング手法も一新。だが、商品の信頼性や広告表示に、行政から疑問が投げかけられている。

大幸薬品がもしここで措置を応諾し法律違反を認めれば、すでにある消費者からの不信は一段と深刻になる。それはなんとしても回避したいはずだ。

足元では過大な需要見込みによる、クレベリンの過剰在庫解消のため、茨木の新工場の生産は一時停止。再開のメドもついていない。今回の騒動を受けて、消費者の購入が再び冷え込む可能性も出かねない。21年12月期の売上高は実質4割以上減の125億円を見込む。22年12月期の2期連続赤字解消を目指す老舗企業の行方は依然、見通し難だ。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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