事故続く「富士山」冬は閉山するもう1つの理由 冬でも「登山できる雪山」はたくさんあるが…

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富士講の開祖とされる長谷川角行(かくぎょう)は、戦国時代に、現在の富士宮市にある人穴富士講遺跡の「人穴」と呼ばれる洞窟にこもり、1000日間の修行を成し遂げたとされています。その教えは「富士講」の信仰の基礎となり、江戸時代には、多くの登山者が富士山を訪れるようになりました。

人穴富士講遺跡(静岡県富士宮市)(筆者撮影)

江戸時代は「白装束&わらじ」で登山

かつての富士講の富士登山の様子や歴史を、豊富な資料や映像によって知ることができるふじさんミュージアム(山梨県富士吉田市)には、当時の富士講の登拝者が登山を行った服装が展示されています。白装束は、過酷な富士山を霊界と捉え、決死の覚悟で登るという覚悟の表れです。富士山を登ることが、命を危険にさらすことであることを認識し、霊山に登ることに対する畏敬の念が表れています。登山で重要な装備である足元は、当時はわらじでした。当時の登山者が使っていた金剛杖は、現代でも山小屋などで販売され、焼き印を山小屋ごとに押してもらいながら登るのは楽しみのひとつですね。

富士講の登山姿(写真左)。右は荷揚げの役を担った強力と呼ばれる人(ふじさんミュージアムで筆者撮影)

今でこそ高性能のレインウェアや登山靴を身に着けて登山することができますが、そんな現代の装備があっても、ときに厳しい顔を見せる夏山の富士山に、当時のような装備で挑むことは、文字通り決死の覚悟で取り組む「修行」であったのではないでしょうか。そのような苦労の先に登頂を成し遂げた当時の人々は、日本一の頂の上で、神に近づいた実感を持ったことだと思いますね。

今年の富士山も、コロナ禍の影響を受けなければ7月に例年通り開山される見通しです。富士登山に訪れる際には、登山道の麓の街にある、富士山信仰に関わる施設や寺社などをぜひ訪れてみてください。古くから人々を惹きつけてきた富士山の信仰の歴史を知ることで、富士登山がより感慨深い登山体験になること間違いなしですよ。

<参考文献>
『知られざる富士山 秘話 逸話 不思議な話』 上村信太郎 山と渓谷社
『知識ゼロからの富士山入門』 瓜生中 幻冬舎

<参考URL>
富士山登山道の情報(静岡県HP)

富士登山における安全確保のためのガイドライン(富士登山オフィシャルサイト)

ふじさんミュージアム
馬場 龍一 エコツアーガイド

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ばば りゅういち

東京都出身。早稲田大学大学院でエコツーリズムを専攻。その後、環境関係のコンサルタント会社勤務を経て、自然にかかわる仕事への思いを捨てきれず、脱サラ。生物や自然環境について学ぶため、東京環境工科専門学校に入学し、生き物や環境保全について造詣を深め、卒業後に静岡県へと移住。富士山のガイドや西伊豆の海でのダイビングガイドとして活動。2021年にエコツアーガイド『LINKs』を立ち上げ独立。富士山山頂登山のみならず、5合目以下で登らずに楽しめる富士山のツアーを幅広く開催している。

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