短命のはずだった車両「走ルンです」の数奇な運命 実は長寿のJR東209系、私鉄のほうが寿命短い?

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209系の登場後、私鉄ではどのような対応がなされたのだろうか。209系で取り入れられた設計の一部は私鉄にも波及するのだが、関東の私鉄を中心として本格的に広まったのは2000年代からだ。

こちらは車両メーカーによる仕様の違いがあり、総合車両製作所(当時は東急車両)のグループや日立製作所の「A-train」のグループ、日本車両製造の「日車式ブロック工法」で造られたグループがある。また、209系では川崎重工業(2021年10月から「川崎車両」)で製造された車両もあり、こちらは2シート工法で造られている。

細かな違いは別の機会に触れるとして、特に総合車両製作所の車両は車体がステンレスで造られ、窓やドア、台車が209系と同じタイプなだけに、その見た目は「走ルンです」の要素を受け継いだ車両と見なすことができる。

総合車両製作所のグループでは東急電鉄の5000系、小田急4000形、東京都交通局10-300形といった車両が例となる。日立製作所のグループでは西武20000系や東武50000型一族、日本車両のグループでは京王9000系や京成3000形などが例で、いずれもよく似た車両と言えるだろう。なお、209系が複数のメーカーで造られたように、京王9000系や京成3000形も複数のメーカーで造られているのだが、見た目は日車式ブロック工法で揃っている。

JR車両よりも寿命が長い私鉄車両

メーカーによる製造方法の違いに加え、私鉄の車両では車両の寿命の考え方も違い、一般的には製造から40年程度使用することを前提としている。各社の事情により、車体の寸法から機器・内装の仕様まで、各車で独自の仕様を盛り込む必要があるからだ。特殊な仕様を盛り込むと、その分車両の製造コストも上がるので、長く使わないと元が取れない。そのうえ、路線の規模を考えれば、JRよりも私鉄の車両の数が少ないのも明らかで、大量生産で1両当たりのコストを抑えることができるJR東日本に比べ、私鉄ではこうしたスケールメリットが発揮できない。

家電製品やマイカーが壊れたとき、「修理したほうが安いか?新品を買ったほうが安いか?」という判断を迫られることがある。これを電車に例えると、JRの場合は新品を買ったほうが安く上がり、私鉄の場合は修理して寿命を引き伸ばしたほうが安く上がる、という判断といえるだろうか。

私鉄向けの特殊な設計があだとなっているのも事実で、こうした弊害を避けるべく、「通勤・近郊電車の標準仕様ガイドライン」と定め、できるだけ共通化が図れるように配慮されている。私鉄の電車が「走ルンです」に似てしまったのは、車両仕様の共通化を図ったことによる。

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