9年ぶり公邸入居、岸田首相襲う「不吉なジンクス」 安倍氏と菅氏は回避、「幽霊が出る」うわさも

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今回入居を決めた岸田首相は、裕子夫人や長男ら家族とともに公邸入りした際、取り囲む記者団に「公務に専念するためで、新鮮ながらも心の引き締まる思いだ」と心機一転を強調。「家族もできるだけ一緒に過ごしたい。家族との時間は大事にしたい」と笑顔を見せた。

さらに岸田首相は13日朝、公邸から官邸への徒歩出勤の際、記者団に「ゆっくりしっかり寝られたような気がする」と満足気で、幽霊伝説についても「いえ、今のところまだ見ておりません」と答え、その後も「もし見たらすぐ皆様に報告します」などと冗談交じりに笑い飛ばしている。

名門派閥宏池会領袖の首相就任は宮澤喜一元首相(故人)以来30年ぶり。ただ、宮沢氏は旧公邸入りを避けた。枕が変わると寝られないという神経質な宮沢氏は「公邸では気が休まらない」と原宿の私邸から通勤した。

それ以前も歴代首相はほとんど私邸から通勤し、首相就任後すぐに旧公邸入りしたのは中曽根康弘氏(故人)だけ。ただ、中曽根氏は5年の長期政権を実現し、蔦子夫人(同)は「公邸に入ったおかげ」などと振り返った。

したがって、首相短命説は新公邸になってからのジンクスとなる。その原因は、小泉政権後3年間と3年余の民主党政権の際の政局混迷によるもので、「政治的ジンクスというようなものではない」(首相経験者)との指摘もある。

ただ、歴代首相には「孤独ゆえに迷信などにこだわった」人物も少なくない。その中で、公邸に入居しても幽霊の話や短命ジンクスにはまったく無関心だったのが菅直人元首相とされる。

もともと、迷信などを頭から否定する性格で、しかも酒好きで公邸でも酔いつぶれて眠るのが習慣だった菅氏だけに、当時の側近は「幽霊が出ても気づくはずがなかった」と苦笑した。

未来を知るのは「公邸のミミズク」だけ?

岸田首相は12月23日の都内での講演で「もし衆院選で負けていれば、史上最短の首相として名を残したかも」と軽口を叩き、政権維持への自信をアピールした。ただ、7月の参院選で自民敗北となれば、短命に終わる可能性もある。逆に、参院選を自民勝利で乗り切れば、最低でも2024年9月までの任期全うが保証される。

臨時国会閉幕を受けて、安倍、麻生、茂木氏の3大派閥領袖会談や、菅氏を中心とする反主流派各領袖の密談など、政局絡みの動きが目立ち始めている。岸田首相もすかさず安倍氏を表敬訪問する一方、麻生、茂木両氏との定期会談で主流派の結束を誇示する。永田町では「政権を巡る闇試合も佳境に入りつつある」(閣僚経験者)との声も出る。

公邸(旧官邸)のシンボルは屋上で四方に目を光らせる4羽のミミズクの彫刻だ。ミミズクはローマ神話に登場する知恵と武勇の女神、ミネルバの使いで、知恵の象徴として官邸の役割を表しているともいわれる。

この公邸のミミズクに終日見守られてさまざまな難題処理に挑む岸田首相。「聞く力」と「聞き流す力」を強かに使い分ける岸田流で、首尾よく長期本格政権を実現してジンクスを打破できるかどうか。「その未来はミミズクだけが知っている」のかもしれない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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