アメリカの多数派工作は東南アジアで成功しない 経済安保での米中対立で劣勢強いられるアメリカ
バイデン政権は2022年1月中旬にもワシントンでASEAN加盟首脳を招いた特別首脳会議を開いて、「新構想」をぶち上げる計画とも伝えられる。「新構想」に台湾を入れれば、中国は強く反発し、米中対立の新たな焦点になる。
ASEANと中国の貿易額は2020年に5169億ドル(約58兆円)とこの10年で倍増、G7の総額の8割弱に迫っている。中国は2022年に発効する地域的な包括的経済連携(RCEP)にも加盟。TPP加盟も強力に推進し、地域における自由貿易の「旗手」の役割を演じようとしている。「経済安保の新構想」が、サプライチェーンの囲い込みを中心に、アメリカ・中国の経済デカップリング(切り離し)の色彩を前面に出せば、経済の中国依存が強いASEAN諸国はそっぽを向くだろう。イデオロギーだけでなく、経済でも「アメリカか中国か」を迫る二元論は、アジアでは通用しない。
通用しない「アメリカか、中国か」の二元論
台湾を招き中国・ロシアを排除した2021年12月の「民主主義サミット」は、分断・対立を深める冷戦思考の舞台になった。アジアでは、イスラム教徒弾圧を強めるインドやパキスタン、それにフィリピンを招待したが、ASEANではベトナム、シンガポール、タイは除外された。社会主義国のベトナムはともかく、マレーシアを招いたのにシンガポール、タイが除外された理由はよくわからない。民主の「線引き」が、いかに曖昧かがわかる。
バイデン政権は、北京冬季五輪を、新疆ウイグル人への人権侵害を理由に「外交的ボイコット」すると発表した。これにはオーストラリア、イギリス、カナダが賛同した。人権問題には強い関心を抱く欧州連合(EU)だが、2024年にパリ五輪を控えるフランスと、2026年に冬季五輪を開催するイタリアは、ボイコットに同意していない。ドイツ新連立政権で、人権を重視する「緑の党」党首のベーアボック外相も慎重だ。
アジアでは、韓国がボイコットを否定。アメリカの「最も頼りになる同盟国」日本の岸田政権は、安倍晋三元首相ら自民党右派の突き上げにもかかわらず、ボイコットへの意思表明を「のらりくらり」とかわす始末だ。こうしてみるとアメリカの多数派工作は決して成功しているとは言えない。日本メディアは、アメリカやG7の主張を「国際社会の意思」とみなす傾向が強いが、自己肯定のための「確証バイアス」がかかった見方だと思う。アメリカの、東南アジアでの劣勢挽回の試みは多難だ。
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