日本人とドイツ人「お客様対応」に見た決定的な差 働く人に過剰なサービスを求める和文化への疑問

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そんな日本の習慣をドイツ人に話すと、「なぜ楽しくお酒を飲んだり、食事をするのに気を遣って取り分けたり、注文をしたりするの?」「ましてや座る席なんて、どこに座ろうとかまわないじゃないか。そんなことを気にしていたら全然楽しめないよ」と言われてしまいました。

ドイツではそれぞれが自分で好きなものを注文し、それを自分で食べるので、取り分けて食べ合う習慣がありません。飲み物もワインなど以外は、自分で手酌かジョッキで飲むので、他の人に注いでもらうこともありません。

「気遣い」を表すドイツ語はない

考えてみれば、「気遣い」「気を遣う」といった日本語に、ぴったり当てはまるドイツ語も見つからないのです。

たしかに、「おもてなし」が美徳とされる日本で、すべての「おもてなし」を放棄するのは、仕事関係の付き合いなどでは難しい部分もあるでしょう。

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ですが、過剰な「おもてなし」は、もてなす人を疲弊させる一方で、もてなされた側はそれが当然だと思っていることが多々あります。日本のサービス業で一生懸命「おもてなし」をなさっている方は、そのことをよくご存じでしょう。「おもてなし」が当たり前になって、逆に気遣いを要求するようになるのは、美徳でもなんでもないと思います。

こうしたドイツ人の考え方や習慣は極端に思えるかもしれませんが、日本は逆に、「気遣い」や「おもてなし」を美徳として重視するあまり、働く人に過剰なサービスを求めすぎているように思えます。他者を慮(おもんぱか)ってサービスすることは、それだけ「自分の意思」「自分の本音」を押し殺して働くことを意味します。

それが生きづらさにつながり、さらに「カスハラ」「ブラック企業」「過重労働」の一因にもなっているように思えてなりません。

キューリング恵美子 ライフアドバイザー

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きゅーりんぐえみこ / Kuehling Emiko

埼玉県出身。大学卒業後、大手靴メーカー、旅行会社を経て、ドイツ法人の日本本社に勤務。ドイツ人と結婚。ドイツ、バイエルン州ミュンヘン近郊に移住。長男長女を出産し異文化の中で子育てに奮闘。ドイツ在住は20年を超える。また、バレエ留学生のコーディネイトやライフアドバイザーなど、起業家としての顔も持つ。50歳で大病に見舞われたのを機に、ドイツ人の自己肯定感の高い生き方を見直すようになる。データ上には表れない「生身のドイツ」を知る数少ない日本人として精力的に情報発信を行なっている。

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