東武浅草駅、まだ知られていない「駅ビル」の秘密 開業90年、リニューアル後も残る「煙突」の形跡

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人気観光地の浅草の中にあって、エキミセは周辺の住民やローカル目線でショッピングを楽しみたい外国人客が利用しやすいつくりとなっているようだ。「エキミセはインバウンド(訪日外国人)"も"利用するがどちらかというと地元の方向け。昔は屋上に遊園地があったので、そういう時代の思い出を持って足繁く通っていただける方々に支えられている」(齋藤さん)という。

北口の円柱のような部分の内側が煙突だった(記者撮影)

1931年の開業時とは建物外観の違いが目立つ部分もある。古い写真を見ると、北側の屋上に高い煙突があったことがわかる。これは地下で石炭を焚いて各階の暖房に使っていたボイラー用の煙突という。普段駅を利用していても気づかないかもしれないが、北口の丸い柱のようになっている部分にその名残を見ることができる。

屋上にある煙突の跡(記者撮影)

巨大かつ歴史がある建物だけに、通常立ち入ることができないエリアについては、まだまだ知られていないことが多い。地下には壁が黒くすすけたボイラー室の跡があり、煙突につながっていた穴が残っている。また、ポンプ室にあるアメリカ製のスプリンクラー装置は都内で2番目に導入されたといい、いまも現役で建物を火災から守り続けている。屋上の関係者以外は入れない、北東の角には改装時に短くなった煙突の跡が行き交う電車を見下ろしている。

「エスカレーターを遅くした」

駅ビルの“支配人”にあたる東武ビルマネジメントEKIMISE店舗事務所の統括マネージャー、斉藤幹雄さんは「しっかり造りこんである建物なのでとくに大きな修繕が必要になったことがない」と話す。反面、設備面では利用者のニーズに柔軟に応じた工夫を凝らす。最近、百貨店を中心に年配の来訪者が多いことに配慮してエスカレーターのスピードを緩めたという。「『使いやすくなったね』という声をいただいている」(斉藤さん)と反応も上々だ。

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100円ショップに日用品を買いにくる地元住民がいれば、百貨店にタクシーで弁当を買いに来る年配の常連客の姿もある。もちろん、毎日の通勤通学で駅を利用する人や、浅草を訪れる観光客のニーズも満たす。開放感あふれる屋上広場は家族連れにぴったりだ。斉藤さんも「館内巡回の合間にスカイツリーが眺められる屋上に出ると心が浄化される」とお気に入りの場所に挙げる。雷門や浅草寺と並び、浅草のシンボルとしてさまざまな客層に愛されてきた駅ビルは、いまも変わらず多くの人でにぎわっている。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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