死んだらどこへいくのか、納棺師が出した「答え」 簡略化進む葬儀が「必要」であると考える理由

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ある納棺式にうかがったとき、枕元にアルバムが飾ってありました。亡くなった方のメモリアルコーナーに、その方の写真が飾ってあることはよくあります。ところがそのときは、枕元に飾ってあるアルバムにあったのは、喪主になる息子さんの写真ばかりでした。そして写真にはたくさんのメッセージが添えられています。どうやら亡くなったお母さんが作ったようです。

「すごい! お母さんの思いが詰まったアルバムですね」つい出てしまった私の言葉に、「母はいつもビックリすることを思いつくんです」と笑いながら、20代の息子さんが、お母さんにもらった「課題」のことを話してくれました。

がんで亡くなった50歳のお母さんはシングルマザーでした。自分が亡くなったとき、息子さんの父親に自分の死を知らせることを課題として残しました。息子の成長を知らない父親に、このアルバムを届けて、と話していたそうです。

「……すごい母親でしょ」

彼は泣き笑いのような表情で、そう言いました。

本当にすごいお母さんです。きっとこの課題をクリアすることが、息子さんの心の整理に必要だと感じていたのでしょう。

自分が病気と闘いながら、亡くなった後に残される人のことまで、私は考えられるだろうか? 

亡くなった人の存在をその場で確かに感じる

亡くなった人はどこに行くのか? 天国なのか? ほかの場所なのか? それとも「無」なのか? 死に関わる仕事をしていても、その答えはわかりそうにありません。しかし、霊能力のまったくない私でも、納棺式という時間の中でご遺族のお見送りのお手伝いをしていると、亡くなった人の存在をその場で確かに感じるのです。

私は父が大好きでしたが、結婚して地元から離れると、なかなか会いに行くことができませんでした。だから父が亡くなったとき、以前より父がそばにいるような気がして、少し不思議でした。

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自分が死んでからのこともよくわかりません。けれど、私を思ってくれる人がいるうちは、その人の中できっと、生き続けているのだと思います。

人は死んだらどこに行くのか──それを考えるとき、私の中でこんな映像が浮かびます。ひとつの命が、花火のようにパッと散ってたくさんのかけらになり、自分を思ってくれる人の中に飛び込んでいく。そのかけらを受け入れてくれた人の心は初めのうちはズキズキ痛むけれど、かけらは時間とともに溶けてその人の一部になっていく。

多くの死とお別れを見ながら、そんなことを考えています。

前回:「亡きお母さんの「におい」探す子へ納棺師の提案

大森 あきこ 納棺師

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おおもり あきこ / Akiko Omori

1970年生まれ。38歳の時に営業職から納棺師に転職。延べ4000人以上の亡くなった方のお見送りのお手伝いをする。(株)ジーエスアイでグリーフサポートを学び、(社)グリーフサポート研究所の認定資格を取得。納棺師の会社・NK東日本(株)で新人育成を担当。「おくりびとアカデミー」、「介護美容研究所」の外部講師。夫、息子2人の4人家族。

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