「新しい資本主義」経営者にまるで支持されない訳 「分配なくして成長なし」が無視する2つの矛盾

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第1に、日本では分配を増やしても、消費は増えないでしょう。他のOECD諸国と違い、日本は極度の低成長・財政難です。日本の国民、とくに低所得者は、雇用や年金が今後も維持されるのか危惧しています。この将来が不安な状況で給付金などを分配されても、国民は生活防衛のために大半を貯蓄に回すでしょう。これは昨年の現金給付で証明済みです。

今回の10万円の給付で、政府はうち5万円をクーポン券で支給します。現金支給で消費が増えるなら、わざわざ967億円もの追加費用をかけてクーポン券を配る必要はないはずです。クーポン券を検討している時点で、政府は「現金支給だと貯蓄に回ってしまい、消費は増えない」と自覚しているわけです。

仮に岸田首相の狙い通り「分配→消費→成長」という流れが実現するとしても、効果は一過性でしょう。分配重視が危機対応の一時的な政策というならともかく、この国の基本方針になったら、長期的に重大な悪影響があります。

分配重視で「日本の衰退」待ったなし

第2の問題は、分配重視でイノベーション(革新)や創業が停滞してしまうことです。イノベーション・創業には、大きなリスクが伴います。とくに創業は、起業家にとって人生を賭けた決断です。リスクを取り、懸命に努力してイノベーション・創業を実現しても、その成果が低所得者に分配されるだけなら、馬鹿馬鹿しくて誰もイノベーション・創業に挑戦しなくなります。

日本にはGAFAのような革新的な企業が現れず、昭和の経済の主役が今も主役です。分配重視によってイノベーションや創業がさらに減り、少しくらい消費が上向いても、日本・日本企業の国際競争力はますます低下していくでしょう。

また、企業や人材が海外に流出します。不採算企業に分配する優良企業や低所得者に分配する高所得者は、搾り取られるだけの日本に見切りを付けて、負担の少ない海外へ脱出するでしょう。

習近平国家主席が毛沢東以来の「先富論」(富める者から先に富む)から「共同富裕」(格差是正)へと舵を切った中国では、企業・人材の国外脱出が増えています。

鎖国の時代ならいざ知らず、企業も人材もグルーバルに移動する時代に、優れた企業・人材がいつまでも日本に残ってくれると想定するのは、あまりにも楽観的ではないでしょうか。つまり、分配重視は成長に繋がらないどころか、逆に日本の衰退を加速させてしまう危険性をはらむのです。

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