乗車5分、「世界最短の国際列車」はなぜ存在するか

マレーシア―シンガポール間、近い将来姿消す?

国際列車は、関係する国の鉄道が所有する車両が交互、あるいは適当な比率で運用されるのが一般的だ。複数の国が陸続きの欧州では、通過する各国の車両をつないで走る長距離列車もある。

JBセントラル駅に掲出された「シャトル・テブラウ」の案内(筆者撮影)

ところが、マレーシア―シンガポール間の国際列車はマレーシア国鉄(KTM)の列車がジョホール・バル―シンガポール間を往復する「片乗り入れ」の形となっている。なぜかと言えば、この路線は歴史上の経緯から線路などの施設も含め、全線をKTMが保有しているからだ。

では、その歴史をざっと紹介してみよう。

1923年9月:ジョホール・シンガポール・コーズウェイ(堤防)の線路敷設完了。シンガポールの旧ウッドランズ駅への貨物列車乗り入れ開始
1923年10月:堤防の線路を通る旅客列車の運行開始。旧ウッドランズ駅廃止
1924年6月:堤防に鉄道と並行する道路開通
1932年5月:シンガポール市内ターミナルとしてタンジョン・パガー駅が開業
1965年8月9日:シンガポール、マレーシアから分離独立し建国
1998年8月1日:ウッドランズのシンガポール側検問所が供用開始
2010年10月21日:旧ジョホール・バル駅閉鎖、 JBセントラル駅供用開始
2011年6月30日:タンジョン・パガー駅―ウッドランズ駅間(約20km)廃止
2015年7月1日:国境越え列車の運行区間がJBセントラル駅―ウッドランズ駅間のみに

つまり、線路はシンガポール独立前にマレーシアが建設し、現在までそのまま使われているが、2011年にシンガポール市内中心部から国境付近(ウッドランズ)までの区間が廃止。その後、2015年にはJBセントラル駅より先から運行されていた国際列車もなくなり、国境を越える列車の運転区間は堤防上を行き来する程度にまで短縮されてしまったわけだ。

「入国後に出国」の不思議な鉄道

マレーシア側は、シンガポールの独立後も「鉄道用地はマレーシアのもの」と主張し続け、これがシンガポール側の不興を買っていた経緯もある。実際に、タンジョン・パガー駅の入口には、Welcome to Malaysia(マレーシアへようこそ)と大きく記されていた。

かつてシンガポール側の終点だったタンジョン・パガー駅。廃止後も駅舎は保存されている(筆者撮影)

また、駅の廃止時点では、出発客に対するマレーシアへの入国審査を同駅で実施していたにもかかわらず、シンガポールの出国審査は堤防を渡る直前のウッドランズ検問所でわざわざ乗客を降ろして行うという、国際慣例からみてもおかしなことが起きていた。

タンジョン・パガー駅は廃止になったが、シンガポール政府が旧駅舎を文化財として残すこと、廃線跡は遊歩道として残すことなどを決めたことで、鉄道がなくなっても当時の面影を感じることができる。

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