苦境のヨーカドー再生に挑むヒューリックの秘策 駅前の巨大モールと競合しないための工夫とは

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ヒューリックが2020年2月に発表した中長期経営計画では、不動産賃貸や売買と並んで、「バリューアッド事業」として既存物件の再生を収益柱に位置づけている。リコパ鶴見はヨーカドー店舗の再生案件としては初弾である。GMSの改装を通じて収益力を高め、賃貸物件として中長期的に保有する狙いだ。

不動産売買に比べて時間も手間がかかるバリューアッド事業は、短期的な利益が見込みにくい。それでもヒューリックが成長事業に位置づける理由の1つは、開発メニューを多様化することにある。転売や建て替えに加えて、用途変更や増築、耐震補強といった第3の選択肢を開拓することで、取り扱う不動産の幅を広げている。

これまではオフィスビルに傾倒していたヒューリックだが、こうして商業など新たな用途を開拓することで、オフィスとしては活用が難しい物件や土地の取り扱いを拡大させている。2019年9月に開業した商業施設「ヒューリックアンニュー吉祥寺」の建物も、元々は病院として使用されていたのを再生させたものだ。

スターツもヨーカドー新浦安店を再生

不動産会社がヨーカドー店舗を再生させた例は、ヒューリックにとどまらない。不動産管理のスターツグループは、2018年9月に千葉県浦安市で「ニューコースト新浦安」を開業した。これも元は「イトーヨーカドー新浦安店」で、1棟借りをしていたヨーカ堂が不採算を理由に撤退を表明していたところを、スターツが取得した。

スターツが再生した「ニューコースト新浦安」。商業施設として収益を上げるのみならず、同社が不動産を多数有する新浦安地域の価値向上も見込む(記者撮影)

スターツがヨーカドーの店舗を取得した目的は、商業施設として収益を上げるためだけにとどまらない。スターツは浦安市内で総戸数170戸の分譲マンションや全88区画の戸建てを開発するほか、高齢者施設やホテルも運営している。市内で大型商業施設を運営することにより、自社物件の販売や利用の促進策になると踏んだのだ。


ヨーカドー退去後、スターツはスーパーマーケットのヤオコーやニトリなどを核テナントにすることで、日常使いのショッピングセンターとして見事物件を再生させた。

ヒューリックやスターツが取得したヨーカドー店舗の売り主は、いずれもREITや一般事業会社などの長期投資家だ。集客力が落ち込み、建物も老朽化の進むGMSは、保有し続けるのに二の足を踏むケースは珍しくない。一方、店舗の改装やテナント入れ替えに長けた不動産会社は、大幅な業態変更や建て替えを視野にソロバンをはじくことができる。

売り上げ不振が叫ばれるGMSだが、不動産会社の“再生力”次第では金脈となりそうだ。

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一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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