高額運賃の北総鉄道「大幅値下げ」は簡単ではない 「黒字」の損益計算書からは見えない事情がある

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まず第1期線として小室―北初富間を開業、北初富から新京成線に乗り入れて松戸まで直通運転を実施し、松戸から常磐線で都心に向かうルートを構築する。そして第2期線として新鎌ヶ谷―京成高砂間を開業し、京成線に乗り入れて都心まで直通するという計画だ。利便性を高めてニュータウンの開発を加速させるためには第2期線の整備を急がねばならなかったが、建設には多額の費用を要するため、需要が増えてから開業させる必要があった。

だが、ここに2つの誤算があった。1つはニュータウンの開発遅れにより利用者の「培養」が思うように進まなかったこと、もう1つは第2期線の建設が遅れたことである。そして、この建設遅れと密接な関係にあるのが、第3の要因である第2期線建設費の高騰だ。

北総の第1期線及び第2期線の整備は、鉄道建設公団(現:鉄道・運輸機構)が事業者に代わって建設し、設備を事業者に譲渡。事業者は譲渡価格に利子(公団が建設のために借り入れた資金に係る利子)を加えた金額を25年分割元利均等で償還する「P線方式」と呼ばれる形で行われた。

膨れ上がった建設費

北総は1979年に第1期線を開業させ、すぐ第2期線の建設準備に取り掛かった。しかし沿線となる葛飾区が高架線に反対し地下化を強く求めたため、説明に時間を要し着工は1984年にずれ込んだ。さらにバブル経済を背景とした地価高騰により用地買収が難航。1988年に予定していた開業は3年遅れ、建設費も579億円から916億円に膨れ上がった。

1999年に会計検査院が行った検査報告(「日本鉄道建設公団が建設し第3セクター等に譲渡した民鉄線に係る譲渡代金の償還状況等について」)と、筆者が鉄道・運輸機構に対して行った法人文書開示請求によれば、第1期線の譲渡価格は157億円で、1978年度下期~2003年度に年間約7億円で償還している。一方、第2期線の譲渡価格は1141億で、これに利子を加えた金額を1991~2016年度にかけて年間約77億円で償還する計画だった。

2000年代初頭の北総・公団線の様子。電車は京急電鉄の乗り入れ車両(撮影:梅谷秀司)

だが、全線開業時に年間5139万人を見込んだ利用者は1655万人と想定の3割にとどまり、営業収入は低迷した。そのため1994~1999年度、さらに2001~2003年度の間は元金の償還が猶予されることになったが、状況は好転しなかった。2004~2016年度の13年間で猶予された分もあわせて償還するとなると、償還額は年間100億円に達することから、2004年に償還期間を25年から35年に延長することが決まった。さらに2012年には、期間を35年から45年に延長する措置が取られた。

元利均等償還なので償還期間が延長されれば毎年の償還額は減少する。この結果、償還額は2004年度に約58億、2012年度には約34億円まで減少した。これにより悪化していた資金繰りは大幅に改善した。

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