世代問わず人気の軽カー「タント」発売2年通信簿 ファミリーから高齢者までターゲットを拡大

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現行モデルのタントXターボのインテリア(写真:ダイハツ工業)

さらに室内には、乗降の際に体を支えるためのグリップが前後の席に設置されていたり、販売店で後付けできたりするように考慮されている。グリップは、高齢者だけでなく小さな子供にも便利ではないか。いわゆる車椅子での乗り降りや、乗車後に車椅子を載せやすくした福祉車両ではないにしても、老若男女が利用しやすいクルマ作りを見直したのが現在のタントだ。

ミラクルウォークスルーパッケージ<ラクスマグリップ(助手席)>(写真:ダイハツ工業)

これを実行するため、ダイハツは新車開発と別に、地域密着プロジェクトの活動を立ち上げ、販売店や理学療法士、自治体などと協力して、消費者が実際に使いやすい、あるいは楽だと思える使い勝手の研究と実証を行ってきた。その成果のひとつが、ミラクルオートステップをあとからでも装備できるようにした車体構造の開発だ。床を低くすることも含め、これらはDNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)によって実現している。

DNGAは、トヨタのTNGAに似ているが、軽自動車開発を基にして登録車へも適応可能なダイハツ独自の考えによる設計手法だ。その一例が、小型SUV(スポーツ多目的車)「ロッキー」とトヨタ「ライズ」で活かされている。

初代タントの子育て家族を支援するスーパーハイトワゴンから、すべての世代へ向けたライフパートナーというのが、現行タントの位置づけだ。何かひとつが飛び抜けた商品価値ではないかもしれないが、いざ使ってみると多くの人に便利で優しいということが浸透してきているのではないか。そしてそれこそが人々の暮らしを支える軽自動車の原点といえる。タントの善戦は、小さいクルマの価値を見極めようとするダイハツの真摯な姿勢から生まれている。

課題は電動化、他社のEV戦略に対抗できるのか

タントXのスタイリング(写真:ダイハツ工業)

次の課題は、手ごろな価格での電動化だろう。自宅で充電して使えば軽自動車を利用する手間はさらに省かれることになる。加えて自然災害の甚大化が進む今日、万一の停電などに対処でき、電気に支えられた暮らしを守ることにも役立つ。

軽自動車のマイルドハイブリッドではスズキが先行し、日産と三菱自動車が追従している。スーパーハイトワゴンの日産「ルークス」は、台数では上位3車に及ばないが、対前月比で8月は122%強の増加、また対前年累計比では154%強の増加となっている。消費者の指向が動きはじめていそうだ。

そして、日産と三菱自動車の両社からは来年、軽EVがいよいよ発売となり、消費者が実際に支払う金額は約200万円と予想されている。ホンダも電動化の鍵は軽自動車が握ると新任の三部敏宏社長は語り、3年後の2024年に登場する予定だ。電動化に手をこまぬいていると、いつの間にか後塵を拝することになりかねない。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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