価格崩壊に債務超過も、「ホテル生存競争」の過酷 続く外出自粛で見えぬ回復の兆し、極まる困窮

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昨年来、銀行借り入れや融資枠(コミットメントライン)を設定し、資金確保に動いた企業は多かったが、資本増強策に乗り出すケースも相次いでいる。

一時債務超過寸前となり、3月に宴会場の太閤園を創価学会に売却した藤田観光。同社は9月、日本政策投資銀行の飲食・宿泊業向け支援ファンドから150億円を調達する。京都ホテルも9月に同ファンドから10億円、6月末で債務超過となったホテル運営会社のグリーンズも10月に60億円を調達する。

ただ、懸念されるのは、これからは大幅なコスト削減が見込めない点だ。家賃減額や清掃など業務委託費の見直し、社員出向、雇用調整金の活用など、多くの企業がすでに手を尽くしている。

変異株の脅威も続く。デルタ株が蔓延しミュー株も確認されるなど、水際対策には期待できない。感染者数が増える冬を前に、宿泊業もより厳重な対策や制限を課される可能性がある。

つまり、ワクチン接種が進んでも業況は好転せず、負のスパイラルに陥るリスクがある。

状況次第で倒産急増も

「金融庁などが資金繰りを支援するように指針を出しても、銀行は不良債権を抱えるわけにはいかない」。銀行出身のホテル幹部が語るように、今後は人員削減や店舗閉鎖など、踏み込んだリストラ・構造改革を実行できなければ、借り入れや資本増強策の難易度は増していく。

足元では銀行の返済猶予等で倒産件数が急増しているわけではないが、今後は注意が必要だ。

帝国データバンク情報部の田中祐実氏はこう語る。「コロナ緊急融資を受けた企業は借り入れが増え、追加の融資を断られるケースも散見される。追加の資金が出ない状況が続けば倒産件数が高水準で推移する可能性もある」。その一方で、余力があるうちに廃業や事業売却を選択するケースも増えているという。

緊急事態宣言のたびに回復シナリオは遅れ、宿泊需要の停滞は長期化している。有効な策を見いだせない中、ホテル業界は一段と過酷な生存競争に突入している。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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