ECBの量的緩和縮小が急浮上、ユーロ相場への影響 QEを9月から縮小、来年3月末までに撤退終了も

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PEPPには未曾有の緩和によって「インフレ軌道が従来の安定軌道から逸れないようにする」という趣旨の目的があったが、これもおおむね達成されたと言える。このように成長率・金利・物価といった基礎的な経済・金融情勢はPEPPの減速を明らかに正当化しており、残る課題は「変異株の感染拡大をどれほど重く見るか」である。

この点は合理的な予想が難しい論点だけに、保守的なイメージの強いラガルドECB総裁は静観するのではないかと筆者は考えていた。しかし、ここにきてフランスやオランダといった国々からテーパリングひいては来年3月の終了を正当化する声が出ている中、静観を貫くほうが難しくなっているようにも見受けられる。

こうなってくると、コロナと共存のうえ、実際に高い成長率を実現し、金融政策の正常化にまで漕ぎ着ける欧米と、漫然と新規感染者数をカウントして緊急事態宣言を続ける日本との間の格差は正視に耐えかねるほど大きなものになってくる可能性が非常に高い。かかる状況下で円が対ドルはもちろん、対ユーロで値を上げることは考えにくい。

9月会合はユーロ相場見通しを切り上げる可能性

筆者は今後1年のユーロドル相場の見通しについて、欧米金融政策格差を背景としてユーロドルが来年3月末までに1.15ドルを割り込み、その後も下値を切り下げていく展開を予想していた。その前提としては「どのみち、PEPPを来年3月で終わらせるのは不可能」との思いがあった。

しかし、ECBが本当に3月のPEPP終了を図るのであれば、それはFRBよりも早く「量」の撤収が終わることにもなりかねない。もちろん、そうであっても政策金利がマイナス0.50%という非常に深いマイナス圏にあることを思えば、正常化プロセスを着々と進めるドルにユーロが勝つことは難しいだろう。

だが、9月9日会合の情報発信次第では想定すべきユーロドルの下値を切り上げ、今後1年で1ユーロ=1.15~1.20ドルのレンジを維持できるような展開も想定しておく必要があるように思い始めている。そのような地合いとなれば、ユーロ円相場は1ユーロ=140円を視野に収める展開も否めない。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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