「個人の支援」がスタートアップを元気にする 「エンジェル投資」と「クラウドファンディング」

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日本のベンチャーやベンチャー投資についてのデータベースを形成しているジャパンベンチャーリサーチ(JVR)の北村彰社長によると、最近では、ITベンチャーで成功した起業家が次世代の起業家に投資するサイクルが回り始めたとのこと。2013年に株式公開したベンチャーキャピタル投資先企業34社の総資金調達額246億円(設立からIPOまで)のうち、ベンチャーキャピタル投資が103億円、個人の出資(創業者を含む)が93億円と一定の規模になってきています。ネットエイジの西川社長、クックパッドの穐田社長、mixiの笠原会長をはじめアクティブなエンジェル投資家が出てきているそうです。

エンジェル投資は、企業への出資という形態をとります。「出資」は、資金を提供し、株式を取得する仕組みで、投資家は企業の成長にあわせ配当や株式売却によるキャピタルゲインを獲得します。一方、事業が立ち行かなければ、配当もありませんし、株式売却時にロスが出ます。

起業家の側からみると出資を受けることで資金を得るみかえりに、会社の所有権の一部である株式を提供することになります。銀行融資と異なり返済や利息を支払う必要のない資金を獲得し、通常は担保や個人保証も求められません。しかし、投資家に会社のオーナーになってもらうので、経営に口を出す人が増えることになります。事業の見通し(事業計画)、株式の持ち分をどうするか(資本政策)、エンジェルが何を期待して投資をするのか、それぞれの人柄など、投資家と起業家の双方で十分に確認する必要があります。

エンジェル投資では、経営の経験を持つ人や事業に共感を持つ人が投資家になることが多い状況です。経済産業省の実施したエンジェル投資家への調査(144人が回答:複数回答)では、投資の動機は、「企業の成長プロセスを楽しみたかった44%」、「社会貢献をしたかった、夢を実現してくれる事業だった40.3%」、といった精神的な満足を求める動機が、「投資リターンが期待できた34.7%」という金銭的な動機を上回ります。また、上記の調査では、エンジェルが株式を売却した結果として、元本割れが1/4、元本並みが1/4、半分がプラスという状況ですが、投資に満足しているかどうかとの問いには73%が満足と回答しています。株式売却益が出なくとも満足しているという人がいるということですので、エンジェル投資は、金銭リターン以外の要素があるファイナンスと言えます。

IBMの北城相談役はエンジェル投資について「ベンチャーへの出資が盛んになれば、起業家は借り入れではなく資本金として事業資金を得るので、家などを担保にせずとも起業できて、仮に会社が倒産した場合でも再挑戦がしやすくなる。だから挑戦するひとが増える。」とした上でその本質を「成功した人が次の成功を生みだす好循環をつくる仕組み」と語ります。

エンジェル税制

この様なエンジェル投資を後押しする制度がエンジェル税制です。エンジェル税制は、一定の要件を満たす創業間もない企業に、 株式投資した投資家が、その投資額を課税対象となる所得又は株式譲渡益から控除できる制度です。すなわち、投資額の分、税率の係る金額が減り、納税金額が少なくなるという仕組みです。

○ 対象となる企業(税制適格企業)の要件は、
 中小企業であり、新しい取組をする企業
 所得控除については、創業3年未満で黒字化していない企業
 株式譲渡益控除については、創業10年未満の企業
 その他株主構成等が一定の要件を満たすこと 等
 
○ 対象となる投資家は、
 金銭の払込みで税制適格企業の株式取得した個人
 
○ 控除・減税の手続きは、
 投資を受けた企業が税制適格であることを経済産業局に確認(確認書交付)
   (投資の前に企業が確認をとっておく事前確認の制度もあります)
 投資を受けた企業が投資家に確認書と必要書類を提出
 投資家が確定申告の際に確認書と必要書類を持って税務署に申告して減税
 

例えば、所得金額が2000万円の中堅企業オーナー社長のA氏が、学校の後輩のB氏が立ち上げるソフトウエア開発会社に300万円投資した場合、当該金額が所得から控除されるので納税額が約110万円安くなります。また、所得金額が500万円の若手サラリーマンC氏が、同僚が脱サラして創業したこだわりのパン屋に100万円出資した場合、納税額が約20万円安くなります。

一方、エンジェル税制は、現状では十分に使われていません。制度創設から17年になりますが累計の投資額で約135億円、直近5年の平均で年間約10億円、税制適格の確認書の交付を受ける企業数も年間62社程度に留まっています。

経済産業省の実施した調査では、その理由として、「未上場企業に投資したことがない40.9%」、「投資の方法がわからない・専門家がいない35.6%」、「エンジェル税制の手続きの手間がかかる・理解できない30.9%」、とエンジェル投資の方法や手続きの面でのハードルが高い事がわかります。

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