西島秀俊が「村上春樹原作映画」で見せた新境地 キャリア30年「遅咲きの俳優」がさらに輝く理由
また、無類の映画好きでもある西島。濱口監督のこともキャリア初期から注目していたという。濱口監督も「(西島は)インタビュー記事で『寝ても覚めても』がすごく良かったと言って下さっていて。(中略)思いが通じたような気がしましたね」と明かしている。
他にも『クリーピー 偽りの隣人』で黒沢清監督、『風の電話』で諏訪敦彦監督と組むなど、芸術性の高い映画監督たちに起用されるのは、絶えず映画に対するラブコールを発信し、映画芸術を深く理解する俳優として認識されているからだろう。
『おかえりモネ』でも作品のメッセージを伝える役割に
西島は、NHKの朝ドラこと連続テレビ小説『おかえりモネ』にも出演中だ。
ヒロインの百音(清原果耶)のメンター的存在である気象予報士の朝岡役で、たびたび彼女のピンチを救い、第14週(8/16~20放送)では、作品のテーマと思われる重要な言葉をセリフにしていた。
「情報を得て的確に予想して行動すれば、喜びや幸せは手に入る。気象情報は未来をよくするためにある」
災害や疫病という危機が身近にある21世紀で物事を科学的に判断することの大切さ。モネが仕事していく上での指針ともなるこの重要な言葉を、脚本家の安達奈緒子が西島に託したのは、濱口監督と同じように、彼に大きな信頼を寄せているからだろう。
西島と安達、そしてモネの父を演じる内野聖陽は、男性カップルの日常を描くドラマ『きのう何食べた?』でも組んでいることもあり、西島も安達の脚本に全幅の信頼を置いていると語っている。
朝岡は優秀な気象予報士で、人気も人望もあるが、かつて自分がテレビ番組の天気予報で「自宅に留まるのがよいでしょう」と言った直後に、そのエリアで土石流が起きてしまったというトラウマを背負っている。さらに、東北の震災などの経験を経て、「人間は災害が起きやすい故郷を捨てて移住することができるのか」という問題意識も抱えている。
振り返れば西島は1992年のデビュー以来、一時期、テレビ出演へのブランクがあったものの、2010年ごろから人気が再燃し、アクション・サスペンスに多数出演。当時はどちらかと言えばヒロイズムを背負った強い男性像のイメージが強かった。
『チーム・バチスタ』シリーズを始め、『ストロベリーナイト』『ダブルフェイス』『MOZU』『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』などで、強靭な肉体と精神を持つハードボイルド的な男性を演じ、公安警察官のイメージが付いたのもこの頃だ。
そうして言葉で訴えかけず行動で見せる役柄を多く演じてきた西島が、今回の朝ドラでは朝岡の思いをストレートに語るのも新しい展開だ。そして、その言葉に説得力が出るのも、50歳という年齢と無関係ではないだろう。
もともと役によって別人に見えるような技巧型の俳優ではなく、『ドライブ・マイ・カー』のようなハードモードのときは口角が下がってムッとした表情になり、『おかえりモネ』のようなソフトモードのときは口角が上がってニマっと笑っている。しかし、そのどちらのモードにも人間味があり、フランクで誠実な人柄がにじみ出るからこそ、観客を信頼させ作品の世界に連れていくことができるのだろう。30年のキャリアをかけて見る側とも作る側とも信頼関係を築いた西島秀俊のポジションは、今後も揺らぎそうにない。
(文中敬称略)
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