海外投資家は「菅首相交代」なら日本株を売る? 日本株への評価を変える必要はまったくない

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海外投資家の間でも、日本の政治情勢は注視されてきていると述べた。そうした投資家と筆者が議論していても、知る限りでは、総選挙で与党の「自公」が大敗し政権交代する、と見込んでいる向きはいない。ただ、首相が交代する可能性が高まっている、とは考え始めているようだ。

不透明要因が減れば、海外投資家は日本株に投資へ

これは、海外投資家が菅首相の諸政策を前向きに評価していて、交代されたら困る、と考えているわけでも、その逆でもない。総選挙後の首相が誰になるかわからない、という可能性が高まること自体が、単に不透明要因であり日本株に投資しづらい、という解釈のようだ。

ということは、選挙後の首相が誰であろうと、自公政権が維持され、(菅氏の続投も含めて)選挙後の新首相が定まれば、その不透明度合いは薄らぎ、海外投資家は日本株への投資を判断しやすくなる、と言える。政治情勢の進展とともに、薄皮がはがれるように、少しずつ株価が上値を探っていくのだろう。

ちなみに、国内投資家の間では「現政権が選挙で勝利するために追加の経済対策を打ち出すだろう」といった期待を唱える声も聞く。「30兆円の追加対策」という数字も、独り歩きしているようだ。

そうした観測に対しては、8月10日の閣議後の記者会見で、麻生太郎財務相は「公表されている支援策を活用して、適切に対応していく」と述べ、現時点での追加予算の編成に否定的な見解を示した、と報じられている。

「財務大臣の立場にいるから、財政膨張に慎重なことを言っているのだろう」と決めつける向きもいるかもしれないが、財務相の発言はしごくまともだ。

2020年度は、コロナ禍による景気悪化に対応するため、多くの予算措置が取られた。しかしその予算の執行が遅れており、2020年度一般会計予算の繰越額(使い残し)は30.8兆円ほどで、史上最高の金額となっている。追加の経済対策を検討するより、すでに打ち出した分をきちんと執行する方が先だ、というのは的を射た議論だと考える。

やはり、何らかの経済対策が選挙目当てでドン、と打ち出されて、株価がドカンと上昇する、という展開は、期待しないほうがよいのだろう。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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