東京五輪での熱狂が台湾に突きつけた重要問題 改めて認識された「アイデンティティ-」や「大陸」の存在感

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あげくには中国企業4社との広告契約が打ち切られてしまい、自身のSNSで「私は台独(台湾独立)ではない!」と投稿するに至った。小Sさんは統一志向の強いタレントとされ、言動も慎重であったが、まったく想定外のところで中国ネット民の怒りを買い炎上してしまった。日本でも卓球混合ダブルスペアの選手への誹謗中傷が問題となったが、同種の問題は台湾でも頻発している。

なぜインターネットを厳しい管理下に置く中国で、これらネット民の国際的な横暴を放置したのか。一部では、五輪開催前に起きた中国・河南省鄭州市の水害に関係しているとの説がある。これまで多くの識者が指摘したように、国内の不満を海外に向ける「ガス抜き」に、東京大会が使われてしまったというものだ。

もっとも、この問題の根本にあるのは、中国政府がいう台湾は不可分の領土であるという虚構が、想像以上に一般の人々の心の奥深くまで浸透していることがわかった。

一方で、台湾ではたとえ統一志向が強い人でも、潜在意識の中に台湾、あるいは台湾人としてのアイデンティティーが根付いていることを端的に示したのではないだろうか。

今後、中国が統一工作を強めたとしても、台湾人は相応に反発して団結し、アイデンティティーもより強固なものになることを改めて感じさせられた。

違法な装置で五輪中継を楽しんだ人たち

最後に明らかになったのは、五輪の熱狂の裏で見えた台湾人、特に中高年の著作権・放映権に対する意識だ。

先の小Sさんのように、台湾人選手の活躍とともに観戦中の写真を投稿する著名人が相次いだが、その中で「安博盒子UBOX」と呼ばれる装置を通して視聴している人が発覚し、物議を醸したのだ。

この装置は世界中のテレビ放送をただで視聴できるとうたうストリーミング機器で、台湾では2019年に著作権法を改正し、これらの製造業者や配信業者、アプリ提供者を取り締まっている。

一方、この中に視聴者は含まれていない。違法な音声や映像であると知って視聴したのであれば罰則の対象だが、知らずに視聴していたのであればその限りではない。

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