東京五輪での熱狂が台湾に突きつけた重要問題 改めて認識された「アイデンティティ-」や「大陸」の存在感
開会式以降、台湾では自国を台湾と呼び、選手団を台湾チームと呼ぶ人々が明らかに増加した。与党・民主進歩党(民進党)もこの波を逃すまいと、世論に寄り添う姿勢を示していた。典型例として、頼清徳副総統が自身のSNSページで「台湾代表チーム頑張れ」と呼び掛けたことだった。
一方、最終的に中国との統一をもくろむ中国国民党(国民党)の江啓臣主席は、この呼び掛けに、「今は正名(参加名を決める)運動のときではない」「中華チームとは中華民国のオリンピック代表団の名前」だと発言し、「中華チーム」という名前にこだわった。
実は、2018年に台湾では東京大会に参加するに当たり、参加名を現在の「中華台北」から「台湾」への変更について問う住民投票が行われた。
そもそも歴史上、R.O.C(中華民国)やChinese Taipei(中華台北)以外の英文名で参加した実績はある。1960年のローマ大会ではFORMOSA、1964年の東京大会と1968年のメキシコシティー大会ではTAIWANで参加していた。当時の国際情勢やその後の国際環境の変化から今日の参加名になっている。
ネット上での中台対立も激化
このようなこともあり、東京大会で失った名前を取り戻すような機運が醸成されつつあったのだろう。しかし、台湾のこの動きに対し、国際オリンピック委員会(IOC)や中国が参加資格の停止を含む警告を再三出したことから、特に選手らの間で参加できないことへの不安が募り、世論もそれに同調し住民投票は不発に終わった。
しかし今回の大会では、日本をはじめとする各国メディアが進んで台湾と呼んだことで、外国からアイデンティティーを呼び覚まされたと感じる人々が多い。今後、台湾内でどのように世論が形成されるのか注目していきたい。
次は、中国ネット民による炎上事件で明らかになった問題だ。
今大会で台湾人選手が活躍すればするほど人々は盛り上がり、その喜びや感動はSNS上にあふれかえった。面白いことに、投稿者は台湾独立を志向する人々だけでなく、中国統一を志向する人々も、一律に台湾人選手を誇らしくたたえていたことだ。中国や中国人選手ではなく、台湾人選手である。同時に「チャイニーズ・タイペイ」であろうが、「中華チーム」であろうが、「台湾」という名前を志向しようが、称賛はすべて台湾人選手に向けられたものだった。
ところが、特に中国でも活躍する芸能人がその喜びをSNSで投稿したところ、中国ネット民による誹謗中傷が相次いだ。例えば、日本でも一時、姉妹アイドルグループS.O.S(シスター・オブ・シュー)として活動し、妹でマルチタレントの「小S」こと徐熙娣さんは、台湾人選手らを「国手」、つまり国家代表選手として投稿したことから、中国ネット民の誹謗中傷に遭った。
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