長距離、循環…かつての「国鉄旅」は魅力的だった 日本中へ「乗り換えなし」で行けた往年の日々

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当時の国鉄は末期の赤字体質で、新聞では頻繁に「○○線は100円稼ぐのに3000円以上かかる」と報道され、経営合理化が迫られていた。駅の無人化、貨物営業の廃止、貨物列車を急行貨物などに集約、当時貨物列車に連結していた車掌車も廃止した。

しかし、運行側の都合ではなく、国民の足として最後まで輸送に専念したと感じる。前述の東北の急行列車は、連結、切り離しを繰り返すので、1本の列車が遅延するとすべての列車に影響する。単線区間が多く、対向列車待ちなどで遅延はしばしばだったが、交換駅ではタブレットを受け取った駅員は走って急行の運転手にタブレットを届け、少しでも遅延を回復させようと懸命であった。そこには国鉄マンの誇りのようなものを感じ、見ていて気持ちがよかった。

列車は遅延を回復すべくエンジン全開で単線の小道を飛ばし、空気バネではないキハ58系はよく揺れたものである。検札の車掌も足を少し開き、踏ん張って車内で立つのが特徴だったくらいだ。

最大の戦犯は「並行在来線」

そんな時代から40年以上が経ち、現在、鉄道の旅をすると、新幹線の延伸で都市間移動が楽になったが、いっぽうで、かつての鉄道旅のおもしろさも消え失せてしまったと感じる。

つまらなくなった理由はさまざまである。在来線の長距離列車や機関車牽引の列車がなくなったが、世界的に見ても、日本ほどではないが長距離列車や機関車牽引の列車は減少傾向にある。夜行列車減少も世界的傾向で、致し方ないと感じることができる(ヨーロッパではエコな交通機関として見直されてもいるが)。食堂車も世界的に減少傾向で、少なくとも車内で調理した食事を出す列車は激減している。

しかし、世界一の長距離を走るシベリア鉄道は近年になって増発されているし、北米の大陸横断列車でも全区間乗り通す乗客は少なくない。新しいものが好きな中国では、国内航空路と高速列車の整備で長距離列車はかなり減ったが、それでも北京や上海から烏魯木斉(ウルムチ)まで運行する列車などは健在である。景色を見ながら陸伝いに移動したいという需要はなくなっていないし、航空に勝てない区間でも列車にはのんびり行く遊び心も必要に感じる。

国鉄時代にはなかった観光列車や豪華寝台列車が運転されるようになったが、こちらも汽車旅旅情とはちょっと違う。快適ではあるが、車窓の美しさだけで旅情を感じるものではない。定期列車には、旅へ行く人、旅から帰る人、東京の孫に会いに行く人など、さまざまな事情の乗客が同じ寝台のコンパートメントなどになることと、車窓などが相まって鉄道旅情を醸し出していたと感じるからだ。

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そして、鉄道の旅をつまらなくした最大の要因に、並行在来線のJRからの切り離しが挙げられる。これは世界的に見ても日本だけの特殊な姿である。新幹線延伸で主要都市間の移動は楽になったが、新幹線の駅が造られなかった町は在来線の特急はなくなり、第三セクターの運営も行わなくてはならず、新幹線開通が逆効果になっているケースもある。

海外の多くでは高速列車と在来線の線路幅が同じため、高速路線ができたからといって在来線の運営会社が変わることはない。台湾は日本同様に高速鉄道と在来線が別物だが、在来線は国鉄のまま、高速鉄道が別会社なので、競争が生まれて在来線がむしろ充実するようになった。

航空機や高速バスはどうしても点と点の移動になる傾向が強い。鉄道はネットワークを活かすことで威力を発揮するはずなのだが、北陸本線などこの先どうなってしまうのだろうと危惧してしまう。

かつての国鉄を回顧すると、現代の鉄道に欠けている魅力がいろいろ思い出されるのである。

谷川 一巳 交通ライター

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たにがわ ひとみ / Hitomi Tanigawa

1958年横浜市生まれ。日本大学卒業。旅行会社勤務を経てフリーライターに。雑誌、書籍で世界の公共交通機関や旅行に関して執筆する。国鉄時代に日本の私鉄を含む鉄道すべてに乗車。また、利用した海外の鉄道は40カ国以上の路線に及ぶ。おもな著書に『割引切符でめぐるローカル線の旅』『鉄道で楽しむアジアの旅』『ニッポン 鉄道の旅68選』(以上、平凡社新書)などがある。

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