新宿「賞味期限切れ」が問う日本式街作りの大問題 新築をしない再開発目指す「馬喰横山」の挑戦
そこで、プラスロビーを文字通り、街のロビーと見立て、そこで来街者と街の人をつなごうというのである。場所としては小さいが、ここで多種多様なイベントやオープンエアのバー、壁面を利用した映画上映会などを開催し、場所の認知度を上げ、興味関心の共通する人たちを呼び込もうという計画である。
買い支えたほかの物件の利用でも、同様に対象となりそうな人たちを集める手法が模索されている。現在改修が進んでいる元ゲストハウスはシェアオフィスになる予定だが、入るのは目黒区青葉台などにあり、クリエイターが多く入居していることで有名なMIDORI.so。
また、遊休不動産を利用してビジネスをスタートしたい人たちに向けてこの地域への参画を呼び掛けるプロジェクトも進んでいる。応募者の中から選ばれた人たちにはビジネスのアドバイス、サポートも付くという。
この地で起業、やがて根付く人が出てくれば面白いことである。住宅とオフィスをセットにして起業や副業を促進するシェアSOHOなる計画もある。唐品氏同様、URに巻き込まれた建築家ユニット勝亦丸山建築計画が作成したのも建築ではなく、この街の魅力を従来とは違う、人の視点で伝えるウェブサイトである。
「不動産の更新で街を変える」とは違う発想
こうして書き並べてみるとわかるが、ここでの再開発は不動産を使ってはいるものの、新しくしたい、開発したいのは不動産ではない。デベロップしようとしているのは人であり、コミュニティ。建物は古いままでも、使う人、使い方が変われば地域は変わりうる。そこで必要があれば建物の更新もありうる。
問屋街で行われているのは、不動産の更新だけで街を変える従来の開発とは逆方向の、人の更新から始めて建物、街のこれからを考えるという、これまでにない開発なのである。
そして、これがうまく行けば面白い可能性が生まれる。地方都市の駅前には従来型の再開発をしようにも収支が合わない場所が少なからずあるが、すべてをスクラップ・アンド・ビルドせずに地域が変えられるなら、再生の希望が生まれてくる。買い支えが必要になった場合には、費用や、誰が現場で人のつなぎ役になるのかなどさまざまな障壁はあるが、打つ手が増えれば可能性も生まれる。
問屋街の開発はURとしては2034年度までに答えを出すという計画だというが、それがどんな結果になるか。これから13年。一般の再開発でも合意形成から始めればかかる時間ではあるが、どのような違いのある結果になるか。長い目で楽しみにしたい。
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