新宿「賞味期限切れ」が問う日本式街作りの大問題 新築をしない再開発目指す「馬喰横山」の挑戦

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デベロップする必要はあるものの、民間企業では自社の収益が最優先されてしまい、作って売ったらおしまいとなる可能性が高い。その点、URなら収益だけでなく、地域性、将来性も考えてくれるだろうという期待からの選択である。

そうした経緯で問屋街に入ってきたURが取ったのが前述の買い支えという方法である。これは、本来は虫食いになった土地を購入して集約、整形地にして開発する際に使う手で、典型的な例としては新宿区の富久クロスがある。

バブル時に派手な地上げが進行した新宿区の富久町ではバブルの崩壊で土地が細切れになって散逸。開発しようにも膠着した状態が長く続いていたが、地元の勉強会から開発への機運が高まり、URの買い支えによって土地の集約が可能になり、再開発が実現できた。URにとっては経験のある手法であり、問屋街でも現在までに6物件を買い支えている。

地域に関心をある人を集めたい

だが、問屋街で大事なことは買い支えが目的ではないという点だ。買い支えた不動産を利用して街に親和性の高い人たちを呼び込む必要があるのだ。そして、それはURの得意分野ではない。というより、多くのデベロッパーにとっても得意なことではない。これまでの不動産経営では誰でもいいから不特定多数を呼び集めることが重視されてきたからだ。

左からUR都市機構の木村しん氏、坪田華氏、運営に当たる合同会社パッチワークスの唐品知浩氏。場ができたことで来街者の顔ぶれが一気に広がったという(写真:筆者撮影)

だが、ここでは「誰でもいい不特定多数」では逆効果。問屋街ではここ10年ほどでマンションが増え、住民は増えているが、価格と利便性に惹かれて集まった不特定多数の人たちの多くは街に関心を持たない。街を変えて行く仲間とはなりえない。これからは今までとは逆の、特定の、地域に関心を持って暮らし、働く人を呼びこまなくてはいけない。

そこでURでは、街の未来に寄与してくれる人を呼び込むために何人かの人たちを巻き込んだ。その1人が問屋街中心部の駐車場を利用したコミュニティスペース「+PLUS LOBBY(プラスロビー)日本橋問屋街」の運営に当たる合同会社パッチワークスの唐品知浩氏だ。

もともとは不動産情報の営業マンだった唐品氏は、独立した2012年以降、新しい暮らしを提案する小屋フェスや、日本橋で期間限定のイベントスペースに携わったりと幅広く活動。近年は街やコミュニティを作る活動にも取り組んでおり、場とネットワークを作るのに長けた人である。

問屋街は店頭に「一般客お断り」の文言がある店が少なくないことからもわかるように、限られた人を相手にしてきた。そのため、いきなり街に来る人にオープンになろうといっても難しい。

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