東京五輪、「無観客開催」決定でも遠い安全と安心 衆院選勝利と続投狙う菅義偉首相の前途に暗雲

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さらに、パラリンピックについても「何としても感染拡大を抑える、そして安全にパラリンピックを迎えたい」と主催者として五輪・パラリンピック完遂への決意をアピールした。

東京都議選での「自民敗北・都民ファースト大善戦」の結果を受け、菅首相は五輪観客問題は小池氏に最終決断を委ねる姿勢を強めていた。都議選前は過労による入院もあって「閉門蟄居状態」(都庁幹部)だった小池氏は、「自らの責任での五輪開催」をアピールし、責任論について言葉を濁す菅首相との対比を明確にした。

無観客開催で自民党内に広がる動揺

迷走の末に五輪の無観客開催が決まり、政界の関心は早くも五輪後の秋の政局に移っている。菅首相は8日の会見で、当面の政権運営については「コロナ対策を最優先に取り組んでいきたい」と繰り返した。

10月21日に任期満了となる衆院の解散・総選挙についても、「全体を考えながら政策としてさまざまなことをめぐらせながら取り組んでいきたい」と述べるにとどめ、パラリンピック閉幕直後の解散断行などに踏み込むことは避けた。

一方、東京への緊急事態宣言の発令と五輪無観客開催によって、自民党内に動揺が広がった。二階俊博幹事長は「思いもよらないことだが、懸命に(感染対策に)取り組む以外にない」と危機感を隠さなかった。さらに、多くの幹部から「もっと早く無観客を打ち出していれば打撃も少なかったのに」との恨み節も漏れた。

菅首相周辺では「五輪が開催されて国民が熱狂し、ワクチン接種が進めば、内閣支持率も回復する」との楽観論が多かった。しかし、無観客開催でも東京の感染拡大が抑えられなければ、「一般国民レベルでも菅首相の責任を問う声は爆発する」(自民長老)のは避けられそうもない。

死者や重症者数が抑制されていても、五輪開催中に東京での新規感染者数が2000人を突破するような事態となれば、国民の不安は頂点に達する可能性がある。菅首相は9日午前、官邸で記者団に対し、「安全安心の大会に全力を挙げる」と冷静さを装った。しかし、パラリンピック閉幕までの2カ月間は「毎日が地雷原を進むようなハラハラドキドキの連続」(自民長老)となるのは間違いなさそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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