世界各国の外貨準備は「ドル離れ」が続いていく デジタル人民元、ユーロ共同債など材料も多い

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こうした動きを多様化と表せば前向きだが、要は「ドル離れ」であり、これを予見させる動きは足元でも着々と増えている。例えば中国やユーロ圏、英国など中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発・発行を進めようとする動きが頻繁に報じられている。

とりわけ中国がデジタル人民元の開発・導入を急ぐ背景には、依然としてアメリカが国際決済網を支配し、いざとなればそこから締め出す(資産凍結など)という切り札を有していることへの対抗策ともいわれる。これまで進められてきた「一帯一路」構想の参加国にデジタル人民元の利用を促すという報道も見られ、それに伴う「デジタル人民元経済圏」の構築、その先にある人民元国際化までを見据えた姿勢が伺える。その道のりは平坦ではないだろうが、緩やかながらも外貨準備におけるドル比率低下に寄与しそうである。

ユーロ圏共同債は重要なテーマ

一方、ユーロ圏もデジタルユーロ開発に着手しており、それもドル比率低下に働きそうだ。なんといっても、先月から発行・調達が始まった欧州復興債やそれを叩き台として恒久化が期待されるユーロ圏共同債の動きが世界の外貨準備運用にとって重要なテーマである。この点に関しては『欧州復興債は「新たな安全資産」として歓迎される』で詳細に議論しているので参照していただければと思う。

世界における「低金利の常態化」は「安全資産の不足」の結果でもあり、世界経済の成長が爆発的な伸びをここから実現できないのならば、そのような運用環境も大きく変わらない公算が大きい。そこまで展望した場合、欧州委員会が発行する債券への需要はやはり根強いと予想される。

「外貨準備としてのドル」は実質的にアメリカ国債を意味するが、「外貨準備としてのユーロ」は唯一最高格付けを誇るドイツ国債とそれに準じるフランス国債くらいしかないのが現状である。「外貨準備としてユーロを運用するにも受け皿がない」という状況が長らく続いてきたことを思えば、復興債やその延長線上に実現が期待されるユーロ圏共同債の誕生は四半世紀続く「ドル離れ」を助長するものとなりかねない。

こうした目立つ動き以外にも、世界経済におけるアメリカ経済のシェアが緩やかながら相対的に落ちることに伴って、「ドル以外の通貨建て資産でも保有しておこう」という動機は生まれやすいと考えられる。外貨準備資産の運用多様化はまだ始まったばかりなのではないか。
 

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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