軽視される「家庭科」を学ぶ意義はどこにあるのか 調理や裁縫に加えて、資産形成も教えるように

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中学・高校の家庭科教師の経験もある、鶴田敦子元聖心女子大学教授によると、家庭科は大きく3つの分野で成り立っている。1つ目は家族、家庭、保育といった、ヒトに関すること。2つ目はモノに関する衣食住の生活で、調理や裁縫が入る。3つ目は消費・経済生活と環境などの事柄。「学ぶことがたくさんあるのは、さまざまなことが絡み合って生活が成り立っていること、かつつねに変化しているからで、当然と思います」と鶴田元教授は話す。

資産形成を教える是非については、「投資への誘いが社会に出回ると、そこにはどういう背景があり、メリット・デメリットは何か、社会保障とは関係があるかないかなど、考える機会があってもいいと思います。しかしそれは、経済社会と自分たちの経済生活の関係を理解する教材にするためであり、資産を増やしなさいと教師や教科書が誘導するのは違うと思います」と鶴田元教授。

また、家庭科の意義については、日常生活がすべての活動の土台であることを確認することや、生活を営む力を身につける必要があること、そして、生死や、社会、経済、自然などとの関係においても重要だと語る。「家庭科は、憲法25条が定める権利である健康で文化的な生活を実現する、総合的な学習としてあります」。

政治事情に翻弄されやすい教科

だが家庭科はまた、政治の事情に翻弄される象徴的な科目でもある。『家庭科教育50年』を手がかりに歴史をたどってみよう。家庭科は戦後、GHQの民間情報教育局(CIE)主導で生まれた新設教科だった。「民主的な家族関係による家庭を築くために学ぶ教科」と位置づけられ、新しい日本を作る人間に育てる期待が込められていた。1947年に発行された小学校の学習指導要領では、良妻賢母教育だった「これまでの家事科と違って、男女ともにこれを課することをたてまえとする」と記されている。そして、学習指導要領の位置づけはガイドラインだった。

ところがその後冷戦時代に入り、政府は経済発展への貢献に求めるようになる。1958年に学習指導要領が改訂されると、家庭科は女子が家事処理技術を習得する科目へ舵を切った。しかもこの学習指導要領は、ガイドラインから「教育課程の国家基準」、と拘束力を持つものに変化する。つまり、夫が会社の歯車として仕事に専念できるよう、生活面を全面的に支える妻の予備軍育成を求めたのだ。実際、この時期は効率的な性別役割分担により、日本は奇跡的な経済復興と発展を遂げていく。

しかし、オイルショックで時代は変わり、女性の社会進出が始まる。男女差別解消を求める世界的なフェミニズム・ムーブメントもあり、欧米は差別解消へ舵を切るが、日本はその後もなかなか変化が進まない。

それでも1985年に女子差別撤廃条約を批准したことから、1989年の学習指導要領の改訂で、男女が協力して家庭生活を築くことなどの観点が定められる。そして、家庭科は1993年に中学で、1994年に高校で男女共修となったのである。

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